Werewolves (ページ11)

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……だが、夜は長かった。

俺の体感では丸１日夜だったようにさえ思う。
《ヘビの生殺し》などとよく聞くが、まさにそれだ。

最初のうちはタマの眠りを安らかな気持ちで見守っていたが、気付けば凄まじい己の煩悩との葛藤を繰り返していたのだ。

………触れたい。

タマは夢を見ながら、眉を顰めたり哀しげな声を上げたり微笑んだりを繰り返す。
その吐息を聞く度に、俺は生唾を飲み込んだ。
今、タマは他人の経験を視ているのだと分かっていても、その小さな喘ぎにいちいち恋心を震わされる。

『参ったな……。』

溜め息をついてひとりごちる。
握られた手は熱くなり、平静さを失いそうになっては唇を噛んで剣の柄を握り締めた。

この時間は職務だ。タマにも、俺にも。
互いに今は仕事をしているのだ。人々の平穏な暮らしを取り戻す為に。

何度も自分に言い聞かせてまんじりともせず過ごす夜は、ある意味厳しい修行時代を思い起こさせる。

…しかし、それは朝までは続かなかった。

『……誰か！誰か来てくれっ！！』

階下から叫ぶ声に反応して、咄嗟に立ち上がる。
タマを起こさないように握っていた手を離してから、俺は廊下へと走り出た。

声はシゲのものだ。
１つ下のフロアで金の占い師コーチの護衛をしているはず。
だが、賊が入ったなら逆に護衛は自分の護衛対象から離れてはいけない。
俺は階段ホールから更に階下に向かって叫ぶ。

『カーミ！霊媒師から離れるなっ！！１階の交代要員は３階へ！』

慌てて駆け上がってくる足音を聞き、再びタマの部屋へと舞い戻る。

タマはまだ眠っていた。
その様子を確認してから、俺は部屋中を隅から隅まで確認していく。
窓の鎧戸は閉まっているか、暖炉から怪しい音はしないか、隠し扉はないか。
昼間の内に確認した場所を改めて点検した後、また階段ホールに戻った。

『団長っ！！金の占い師が…コーチさんが亡くなっています！シーグェルさんは肩に怪我を！』

階段下で叫ぶ部下の声に、背筋が凍り付いた。

金の占い師はずばり当ててみせたのだ。自らに起こる不測の事態を。
証明してみせたのだ。その予言の正しさを…自らの死で。

『カーミはそのまま護衛を続けろ。１人は静かに上がって来て、俺と護衛の交代を頼む。白の占い師は夢見の術を行っているから起こさないように。』

なるべく落ち着いた声で、慌てて報告してきた部下に指示して、俺は階下へ降りた。

…血の匂いがする。