ひとくふう荘 (ページ7)

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タマさんはブンブンと頭を横に振り、キタヤマさんにここから見える道を指し示しながら、色々教え始めた。
ミヤタさんは、ニコニコ笑いながらも、ポリポリ頭を掻いている。

みんな小さな頃からの幼馴染だったよね。
優しい笑顔で、タマさんとキタヤマさんを見守るミヤタさんは、邪魔されたのになんだか楽しそう。
きっと、キタヤマさんのことも大好きなんだね。

分かるなぁ。キタヤマさんね、いつもソファで僕のことナデナデしながら、みんなのこと眺めては嬉しげにしてるから。
この７人は、歳もお仕事も個性もバラバラなんだけど、何故かみんながみんなを大好きなんだ！

まあ、タマさんとミヤタさんの間の大好きはちょっと違うはずなんだけど。

やがて、キタヤマさんは片手を挙げて、また結構長い石段を駆け降りていった。最年長、スゴイなぁ！
残された２人は僕のリードをしっかり握って、ゆっくり神社の裏手の坂を降り始める。

『北やん、スゴイわ。あの石段駆け降りたら、俺なら膝が死んじゃうわ。』
『俺も〜。そういえば、小学校の時もさ、ミツ階段の早降りしてたよね〜。』
『ああ、３段飛ばしでやってたね！三つ子の魂百までってやつだなぁ。』

う〜ん。さっきのことなんかなかったみたいに、いつもの２人に戻っちゃって。
ちょっと違うのは、ミヤタさんがお散歩セットを手首くるくるしながら振り回してたり、タマさんが横に揺れながらふわふわ歩いているくらい？

あ、いつもね、僕のリード持つのがタマさん、おしっこしたとこにペットボトルで水掛けたり、おっきいほうしたのを取ってくれるのがミヤタさんなんだ。

２人とも楽しそうに歩いてるから…まあ、いいけどね。
だけど、あとほんのちょっとのきっかけさえあれば、もっと楽しくなると思うの。

…よし、お父さん、僕、決めたっ！
僕を大切にしてくれるタマさんが、これからいつも幸せであるように頑張るね。

僕もひとくふう荘の住人なんだもん。
誰かの幸せの為にひと工夫してみるぞ！！

何かワクワクしてきちゃって、しっぽが勝手にブンブン揺れちゃう。

……ああ、でも、その前に。

お腹空いたよ〜っ！お散歩の後の朝ご飯〜っ！
早く帰ろうよぉっ！！

僕はまたカリカリとアスファルトを鳴らしながら、お家への道を急ぎ始めた。

fin.