退屈な日々に【9K】

終わらない悲劇ーfkrー ページ46

あの日、拳に好きだと言われた日から、私の生活は一変した。

まずは朝。


｢おはよう、A。｣
｢……。｣


今までろくな挨拶なんてしてこなかった癖に、あれ以来こまめに話しかけてきやがる。

そして家を出る時。

｢行ってらっしゃい。俺今日は早めに帰って来れるから。｣
｢……。｣


その日の予定はLINEでお互いに事務連絡として会話というより一方通行の報告をするだけだったのに。

拒絶の意味を込めてバンッと勢いよく扉を閉めた。

そして何より変わったのは休日。


｢A、好きだよ。｣
｢っ離して！私は嫌いなんだよ！｣


こいつの嫌になるほどのアプローチ。


｢なんでそんなに嫌がるの？｣
｢嫌いだからだよ！｣


今日も同じような問答を繰り返してる。


｢なんでそんなに俺が嫌いなんだよ。｣
｢嫌いなものは嫌いだから！｣


いつもなら振り払える手が、今日は振り払えない。


｢離して！｣
｢嫌だ。俺のどこが嫌い？どこを改善したらいい？｣


なんでそんなに真剣な目をしてんのよ。


｢……ぶ。｣
｢なに？｣
｢っ全部！拳の全てが大っ嫌い！｣


今更傷ついた表情されたって知らない。

私は嫌いなの。貴方と結婚するなんて嫌なの。

どうしてそれを分かってくれないの？


｢……全部って、具体的にどこ？｣


傷ついた表情で、それでもなお質問を重ねる拳が分からない。


私も拳も、相手のことが分からない。

ずっと、一緒にいたはずなのにね。

ずっと、お互いのこと嫌いだったからかな。


｢……そうやってなんでなんでって聞いてくるところ。ずっと一緒にいるところ。野菜とかキノコとか好き嫌い多いところ。ずっと私の事大嫌いだって言ってたところ。それなのに突然好きだとか言ってくるところ。｣


ふと、昔の記憶を思い出す。

私が小2、拳が小6の時のこと。


｢それに……｣
｢それに？｣


あの時は拳と同じ学校に通えるのが嬉しくって、毎日一緒に登下校していた。


｢拳が、私以外の女の子と付き合ってたから。｣
｢えっ？｣


ふと拳の掴む力が弱まって、私は思いっきり手を払った。
そのまま逃げるようにカバンを掴む。


｢待って、Aどこいくの！｣
｢どこでもいいでしょ！ほっといて！｣


いつもなら私がどこに行こうが拳は気にしないし、引き止めない。


なんでこんな時ばかり。

どうして今になって。


そんな疑問ばかり膨らんでくる。

拳を残して出ていった家を見上げる。

他の部屋と変わらない家は、ただ静かにそこにあった。

始まる幸劇→←＿＿＿＿

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