50(続編できました) ページ50
両手に二つずつ持っていた袋の一つを先輩の手が奪って、前カゴに放り込む。そして、もう二つ取って、ハンドルの両サイドに手早く掛ける。あっという間に私の持つ袋は随分と軽い袋一つだけになった。
「……ありがとうございます」
「ええって。行くで」
からからと自転車のチェーンが回り、進み始める先輩の背中を慌てて追いかける。先輩も何かくれたのだろうか。もしかして、あの知育菓子は彼だったりして。とりとめのない会話に花を咲かせつつ、いつもの分岐路で足を止めたが、彼の自転車はそのまま私の帰る道へと進んでゆく。
「えっ、あの……」
「持てへんやろ？この量。家まで行くわ。案内してや」
「……すみません、ありがとうございます」
最初からこのつもりだったのかな、なんて。躊躇なく進む先輩の背中がとても大きく見えた。そこからの数百メートルはあっという間だった。玄関の扉を開いたまま、袋をどこぞの業者のように運び入れる。
「A、どうしたのそれ……え、彼氏！？」
「え？……あ、違う！！」
「……サッカー部で部長してます、コネシマです」
「ああ！サッカー部の。いつもお世話になってます」
大きな物音を不思議に思ったのだろう、リビングから顔を覗かせた母が、先輩に発した言葉を慌てて否定する。そういうのは先輩が一番嫌がりそうではあるので、恐る恐る様子を窺ってみると、案外いつも通りの表情で胸を撫で下ろした。
「部長さん、お茶でも飲んでいきます？折角なら」
「いえいえ、そんな、お構いなく」
「そう？A、ちゃんと見送っていってね」
「そのつもり！」
ばたんと扉を閉める。こういうときの母は一番面倒だ。色々な意味で母は鋭いから、余計な一言を溢しかねない。
「……なんか、すいません」
「なんで謝んねん。あ、はい。これ」
「え、」
突如として差し出されたのは、掌サイズの可愛らしい桃色のラッピング袋。空色の瞳は開けろ、と言いたげに此方を見据えていたから、恐る恐る紐を緩める。
「……ハンドクリーム？」
「誕生日おめでと、っちゅうことで。じゃ！お疲れ！」
「あ、ちょっと…！」
お礼を言う間も与えず、彼は地面を蹴って行ってしまった。可愛らしいパッケージを見つめ、熱くなる頬から意識を逸らすように、ほんの少し手の甲に出してみる。爽やかな柑橘系の香りがふんわりと広がった。
＊＊＊
沢山の高評価、お気に入りありがとうございます！
励みになります。
続編も、お楽しみいただけたらと思います。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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