49 ときめきオレンジ ページ49
時の流れは早いもので、息つく間もなく七月になった。十分に夏と形容できる暑さが、練習中にも纏わり付く。皆で挨拶をし終え、いつものようにコネシマ先輩、もといコネ先輩の元へ練習メニューを聞きにいこうとすると、彼は真っ直ぐ荷物置き場の方へ歩みを進めていた。
「ああ、今日はすぐ帰るわ」
「……そうなんですか、了解です。珍しいですね」
「まあ、な」
なんとなく歯切れの悪い言葉尻に疑問符を浮かべるが、詳しく聞くのも憚られ、そのままお疲れ様でしたと背を向ける。太陽が姿を隠し始め、段々と人影が少なくなっていくグラウンド。見慣れた金髪が居ないことに、ほんの僅かに寂寥感を覚えたのはここだけの話だ。
「A、明日の夜食べたいものはある?折角の誕生日だし、外食でもいいよ」
帰宅早々、母に告げられた言葉にふとカレンダーを見る。……そういえば明日、誕生日。忘れていたことを母に揶揄われるが、同時に四月からの時の流れの早さも実感した。人間は充実した時を過ごしているほど、時の流れは早く感じるらしい。思えば、三月には今頃こんな毎日を送っているなど、想像もしていなかった。
「誕生日すら、忘れるなんて」
静かな自室に、自嘲の笑みがひとつ溢れた。
***
昼休み、三階の空き教室。緊張する私の手を、にこにこと笑みを浮かべながら先輩マネさんが引き、勢いよく扉を開いた。
「Aちゃん!誕生日おめでとう!!」
「おめでとー!」
「おめ!」
サッカー部恒例である、例の誕生日会に私は招かれていた。口々に飛ぶ「おめでとう」の言葉に、口角は上がりっぱなしだ。まだそれほど深く関わったことのない部員にも、お菓子と共にお祝いの言葉を貰うのは少し照れくさかったが、やはりこの部活に入って心から良かったと感じられた。
袋に入りきらないほどのお菓子のパッケージ達。どうやって今日全て持ち帰ろうかと、頭を悩ませる。……最悪、部室に置かせてもらおう。袋から覗く子供向けの知育菓子のパッケージに、くすりと小さく笑みが洩れた。
いつものように居残り練習を終え、部室の鍵を職員室に届ける。今日は一面の曇空。既に辺りは暗くなっていた。頑張って持って帰るか、と意気込む私の背中に、聞き慣れた声が届いた。
「それ、一人で持って帰れへんやろ。手伝ったるわ」
「コネシマせんぱ、……じゃなくて、コネ先輩。いいんですか?」
「俺チャリやし。ほら」
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました(単純) (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - キャーknサンイケメーン((( 内容と作者様の書き方が好きです。!もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい!もうこれは全裸待機ですね!! (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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