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34 ゆるり、ゆらり ページ34

季節は否応無しに移ろいゆく。登下校に通るたった数キロの道沿いにも、ちらほらと紫陽花が色を付け始めた。皐月の下旬、いよいよ県大会の幕が上がろうとしていた。地区大会は地元のグラウンドだったが、今回は少し離れた学校のグラウンドでの試合ということで部員全員が二つのバスに分かれて移動する。バスに揺られる道すがら、さぞ重苦しい空気かと思いきや、予想に反して和やかにチームの皆は談笑しており、リラックスしているようだった。ちらりと通路側を覗けば、金色の頭がうつらうつらと船を漕いでいるのが分かる。それもそうか、緊張するようなタイプでも無いし、とどこか勝手に結論付けて、再び座り直す。

少しずつ視界に緑が広がっていき、やがて山の上の高校へと辿り着いた。すでにグラウンドにはベンチなどが準備されており、直ぐに選手達はアップに取り掛かる。

「Aちゃん、ドリンク用意しとくよ」

先輩の声に返事をして、水道へと向かう。マネージャーにはそれくらいしかできることはない。段々と高鳴る鼓動を押さえつけるように息を深く吸った。

午前十時。
甲高い初戦のホイッスルが響き渡り、一斉に応援の声が飛ぶ。

「サイドもっと詰めろ!」
「周り見ていこう!周り!」

かくいうコネシマ先輩はというと、ベンチスタートだった。本人は不満げだったが、周りの皆が怪我をしたままの出場を許すはずがなかった。それでも今は、ベンチからしっかりとあの声を飛ばしていた。チームは彼がいないとどうなるか、初めて見る私はどこか落ち着かない気持ちだったが、それは杞憂だった。逆に団結しているようにも見えたチームの皆は、一点を決めた後も攻め手を緩めることなく、ただ次の一点を追い求めた。

4-0。最終的なスコアを見れば、それは圧倒的なものだった。使い終わったボトルやコップを洗っていると、直ぐ隣で蛇口が捻られる。今回は片付けも少ないコネシマ先輩が、何気なくウォータークーラーを運んでくれていた。

「え、すみません、ありがとうございます」
「いや、特に片付けも無いしな。……そういえば、実は病院行ってん。もう大丈夫やって」
「そうなんですか、良かったです……。ということはじゃあ、明日からまた自主練しますか?」
「え?いや、まあ、やるけど。残ってくれるんか」

また一緒に帰れるのかな、なんて。

驚いたような瞳にほんの僅かな照れくささを滲ませ、彼は流れる水を止めた。きゅ、という甲高い音がやけに耳についた。

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作品ジャンル:恋愛
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました(単純) (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - キャーknサンイケメーン((( 内容と作者様の書き方が好きです。!もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい!もうこれは全裸待機ですね!! (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あん | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年2月12日 18時

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