32 省察の淵 ページ32
翌日、鮮やかな青が頭上に広がり、草木に残った雫がキラキラと輝きを見せていた。その景勝は前日までの憂いの残余を忘れさせてくれるようで、思わず眩しい太陽に目を向けてしまう。
いつも通りの教室で、いつも通りに授業を受け、いつも通りに部活に行くはずだった。日本で生まれた言葉であるのに、まるで外国語のような古の言葉が綴られた黒板をぼうっと眺めていると、あっという間に終わりを告げる鐘が鳴る。
「Aさん、次の試合の要項、部長の所持って行って貰える？」
声を掛けてきたのは、授業を終えたばかりの先生だった。もうすぐ定年のこの先生はサッカー部の顧問でもあるので、このようなお願いをされることは不思議ではない。しかし今の私には苦笑いを浮かべる他なかった。
それでもマネージャーとしての仕事を全うすべく、昼休みに三年生の教室がある校舎へと向かう。普段立ち入らないそこへ足を踏み入れるのは勇気がいるもので、部長のいるであろう教室へと入る前に廊下で立ち尽くしていると、どんと背中に衝撃が走る。
「Aちゃんやん、どしたの？こんなとこで」
視界の端に映った赤髪。肩に回された腕が、私の手にしていたプリントを掴んだ。 丁度いい、確かキャプテンと副部長さんは同じクラスだから、渡してもらおうと思ったのに。
「シッマー！マネさんが呼んでるで」
プリントを目にした彼は、なるほど顔で教室内を覗き込み、清々しいほどの笑みで彼を呼んだ。……此方の事情も知らないで。向こうも私と顔など合わせたくないだろうに、なのにその金髪は無表情のまま着々と近寄ってくる。真っ白なカッターシャツがよく似合っていて、胸元のボタンが二つ開けられていた。
「どしたん」
「……あ、えっと、顧問の先生から部長に渡してくれって」
「ああ、次の試合のやつか。さんきゅ」
「はい。それじゃ、」
「なあ」
背を向けたその瞬間に届いた声に聞こえなかったふりは出来ず、思わず足を止める。騒がしい廊下と彼の声はまるで温度が違うように感じ、はっきりとその存在を意識した。
「すまん」
それだけで、何の事を言っているのかは理解出来た。周りの雑音が、一切耳に入ってこなくなる。静寂の世界で、彼からの視線が真っ直ぐ此方に向けられていた。何か言わないと、と慌てて彼の正面に向き合い必至に言葉を探す。
「……こちらこそ、余計なこと言ってすみませんでした」
いや、と何か言葉を紡ごうとした彼を遮ったのは、他の三年の先輩達だった。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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