18 掌で隠すのは ページ18
大会初戦まで、あと一週間。
実践形式の練習が多くなり、選手のケアや記録などマネージャーの仕事もだんだんと多くなり充実した日々を送っていた。
そんな生活に日頃の寝不足が祟ったのか、その日は朝から頭痛がしていた。
日課となった部活前の部室掃除をなんとか済ませ、一人でふうと中の木製の椅子に腰掛けて息をつく。腕時計を確認すれば、部活開始まであと十五分。そろそろ行かないと、と立ち上がった時に唐突に視界が霞んだ。頭も電気が走ったかのようにガンと鳴り、思わずガタリともう一度座ってしまう。
目をぎゅっと閉じて、目眩を落ち着けようと頭を抑える。大会も近いのに情けないなと手に力が入った。すると、ガチャリと扉が開く音が届く。
「…どしたん」
その声に薄く目を開けると、訝しげな顔でコネシマ先輩が私の顔を覗き込んでいた。
「え、あー……ちょっと目眩がして」
着替えますよね、すみませんとまだ痛む頭で再び立ち上がろうとすると、彼の手が伸びてふわりと頭に置かれる。
「尚更動いたらあかんやろ、座っとれ」
その優しい手とは裏腹に、彼は厳しい表情を浮かべていた。自らの体調管理もできないのかと呆れているのかもしれない。それでも髪をサラリと撫でる手が心地良くて、少しだけ痛みが遠のく気がした。
「……あ、スマン」
自分が何をしていたかに気付いたように目を見開いて、ぱ、と手を引っ込めるコネシマ先輩。そして、バツの悪い顔をして此方に横顔を向けた。
「いえ…」
ただ、撫でられただけ。
それだけで心臓が高鳴ってしまうのは、些か単純だろうか。
「落ち着くまでそこおって。なんなら今日ははよ帰れ」
ガチャリと扉を開き、足早に先輩は出て行った。
──ただの先輩として見れていない事なんてとっくに分かっていたくせに。
帰りが遅いのを気遣ってくれるのも、車道側を歩いてくれるのも。彼の笑い声だけで明るい気持ちになれるのも、練習中の真剣な表情も、全部が私にとって新鮮に映った。
出会って一ヶ月。いつのまにか彼がどんな人物なのか知りたい、好きなものや嫌いなものを知りたいと、好奇心が胸を埋めつくしていた。
ただの対抗心と憧れが、いつのまに恋情に変わってしまったのだろう。
「マネ失格でしょ……」
静寂が訪れる。熱くなった頬を誰にも見られないように掌で隠し、深く息を吐く。
それでもこの情を表象させる訳にはいかないと、私は小さく息を飲んだ。
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ぴざる2号(プロフ) - 泣いた…好き… (2021年4月2日 8時) (
レス) id: fa56edbecd (このIDを非表示/違反報告)
夢花(仮垢) - 『夢小説』やなくて『小説』読んでるみたいな感じになるし、ストーリーは面白いし、作者さんええ人やし…この小説の大ファンになりました（単純） (2019年10月30日 15時) (レス) id: 1ce7d18474 (このIDを非表示/違反報告)
aaaa(プロフ) - もうなんか今のこのもどかしさが喉の奥に詰まって泣きそうなくらいにこの作品好きです。応援してます。 (2019年8月7日 0時) (レス) id: 6511620324 (このIDを非表示/違反報告)
Souha - ｷｬｰknサンｲｹﾒｰﾝ((( 内容と作者様の書き方が好きです。！もう…なんかやばすぎました。 あと、更新頑張って下さい！もうこれは全裸待機ですね！！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: 60f9fe5ef6 (このIDを非表示/違反報告)
usikosan(プロフ) - しゅきやわ (2019年6月8日 14時) (レス) id: a7c2ae121f (このIDを非表示/違反報告)
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