桃の香 ページ10
「まだですか?」
八「自分、不器用なもんで」
どこかで聞いたことのある台詞を吐くけど、銀八先生が意外と器用なことを私は知っている
だけど、手櫛では髪を整えるのには不十分なのか中々結い直しが終わらなず、時々先生の指が首に触れて嫌でもビクリと反応してしまう
仕方ないじゃん?好きなんだもん
まあ好きを隠す素振りもないけどね
好きだなんて伝えたことはないけど、きっと伝わってる
だから軽くあしらわれて、揶揄われる
今だってほら
髪を結うふりすらやめて、くるくると私の後ろ髪を弄ぶんだ
この何とも言い換えられない空気感が結構すきだったりする
ドキドキと喚く心臓と銀八先生が織り成す言葉が、行動が私のすべてを支配して縛られる
先生がいつか言った通り私はまだ子どもだからやり返すことなんてできた例もない
銀八先生の時間を私だけのものにできる唯一の場所がこの国語準備室
この部屋に入るのにも苦労したものだ
先生にしつこく「質問がある」と入学直後から言い続けて1年が経った頃、やっと国語準備室で質問に答えてくれるようになった
入ってしまえばこっちのもので、質問が終わっても無駄話をして居座っていた
それにも徐々に慣れてきて今ではため口にもなるし、私の居場所にもなって、生徒と教師の距離感もバグってきた
八「んーなんか今日 甘ぇ匂いすんなお前」
「言葉遣いが急に荒廃したんだけど
甘い匂いはたぶん今日付けたリップクリームかな」
柄の悪い執事が私のリップから発せられる桃の香りをスンスンと嗅ぐ音が背後から聞こえる
何だか犬みたいで少し可愛い
先生が甘いのが好きだから今日は桃の香りのやつにしたんだけど、銀八先生のツボを押さえることができたようで嬉しさが勝る
ニマニマと嬉しさで俯いていると、背後から顎を持ち上げられ、先生と至近距離
八「美味しそうですね、お嬢様」
「せんせ…それは…」
この距離感は恋人たちがするそのもので、私にはとても息苦しい
ここまできて生徒と教師なんて綺麗事を覆すのは造作もないことなのかもしれない
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月3日 22時