恋から愛 ページ32
私が欲しいのはこういうんじゃない
「もっと普通のやつ!」
八「誘ったのはAの方だ
前に禁止した香りがするし、その服装も俺好みだし」
「気づいてたんだ」
八「嫁の小さいとこ気づくのが俺の趣味」
この銀色の男はいくつになっても私を沼に沈めてくる
好き、大好き、愛してる
こんなこっぱずかしい愛の言葉を恥ずかしげもなく思えるのは銀八だから
世界中の愛の言葉を掻き集めても足りない気がして、全部詰め込んで銀八を精一杯の力で抱き締めてやる
それに応えるように銀八も私の背に腕を回して抱き締める
学生の時は一方的な気持ちを先生にぶつけて、それを知って先生は私を揶揄い、恋愛ごっこを繰り広げていた
なのに今じゃお互いがお互いを好きで好きで仕方ない
恋から愛に変化しているのだからおかしな話だ
国語準備室の外には部活をしている生徒や退勤までの時間を過ごす教師の声でザワザワとしている
だけどここだけ別世界のように静かで心音さえも聞こえそうだ
誰かがこの部屋に入って来るかもなんて心配は微塵もない
国語準備室は当の昔から銀八先生の縄張りで、入ろうとする生徒も教師もいなくて、私しかこの敷居を跨いだ人物は未だかつていない
もしかしたら私だけが学生の時から銀八先生の特別だったのかもしれない
そうであってほしいし、そうでなければ恋愛ごっこなんてしないよね
「銀八先生、大好き」
八「先生って呼ぶのやめろ、そそる」
私の口振りにまんまとやられて、その気になり大人の男の匂いを醸し出して何度もキスの雨を降らせる
その匂いに今度は私がやられそうになるけど、流石に学校という場所が私の理性を厳しく律し、銀八の頬をパチンと両手で挟めばやっと正気になって離れてくれた
たぶん学校じゃなかったら流されていたいに違いない
「ほら、早く撮るよ」
八「へーへー」
卒業式のあの時みたいに肩を寄せ合い写真を撮り、吐き出されたフィルム
少し大人になった2人が映るフィルムを眺めれば、思い出の更新ができて嬉しさで頬の筋肉が緩む
八「先帰って心の準備でもしとけ、問題児」
子どもの様な気持ちに浸っている私を一気に大人の気持ちに引き上げる言葉が耳元で囁かれた
慌てて銀八に目を移すと、悪い大人の顔をしてニッと口の端を上げていて妙に色っぽく見えた
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月3日 22時