▽舞い込む仕事 ページ31
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『暇だなぁ……』
休暇を告げられてから1週間、私は1度も城の入り口を通ることはなかった。
理由は単純で戦争が続行中であるために当の話相手が戦場に出ているからだった。
グルッペン様は一回の休みですらも不本意の様に語っていたが、あれはある種の強がりだったのかもしれないな。
『まあ進んで戦場に出るタイプだもんね』
国を背負う人間として無闇に戦いの場へ赴くのはどうかとも思うが、そういう所が他の兵士からの信頼を集めているのだろう。
何はともあれ、勤めの無い日々に逆戻りした私は少しばかり退屈な気持ちが芽生えていた。社畜の魂は肉体を超えて継続されているらしい。
パラパラと本を捲っていると廊下の方からやけに黄色い声が聞こえるようになった。なんだろうか。
「おーい、ご令嬢。入りますよぉ!」
『えっ』
雑なノックから間髪入れずテノールの声が聞こえる、男は私が許可を出す前にドアノブに手をかけた様でガチャリと音を立てて扉が開いた。
「どうもー、お邪魔します」
『チーノ様!どうして此方へ…?』
邪魔するなら帰って頂きたい。
そんな想いは伝わる筈もなく、分厚い瓶底眼鏡をかけた彼は相変わらず人食った様な顔で笑っていた。黄色い声の原因は多分この男だろう。
「ご令嬢、最近仕事ないし暇やろ?」
『それは』
「何や暇とちゃうんですか?」
『特に予定はございません……』
オブラートに包んだ暇宣言に彼はご満悦な表情で頷いてみせた。今思ったけど、この人は戦場には出ないのかな。
「書庫の整理中なんやけど、人手足らんねん」
『はぁ……左様で』
「だから手伝ってくださいね」と、なんて事無く告げる彼の右手にはいつの間にやら私の左腕が捕えられていた。どうやら拒否権はないようで。
スタスタと腕引いて歩くチーノ様と横を歩く私は、沢山のご令嬢方の鋭い視線を浴びながら城へと向かったのだった。
「エミさーん!人手増やして来ましたよ!」
「チーノ君お帰り……え!Aご令嬢!!?」
『ご、ご機嫌ようございますエーミール様』
凄い驚いた様子の彼に、挨拶をする私の顔は恐らく変に引き攣っていたと思う。そりゃ仕事ない日に来たら驚くよね。
「え、まさか人手というのは……」
「ご令嬢なら割と頻繁にココ出入りしとるし、丁度ええですやん」
ドヤ顔のチーノ様に、物腰柔らかい彼はやや困った風に私に目を遣った。色素の薄い瞳が意見を求めて私の目を捉える。
『私に、出来る事でしたらなんなりと』
ラッキーゲーム
hoi
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山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (4月30日 18時) (レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ! (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます!続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます!続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます!初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年8月4日 8時