▽不機嫌の ページ25
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勤めが始まってから大凡1ヶ月の時が過ぎ、遠い前世の記憶を取り戻してから約半年もの月日が流れた。
とは言っても私の世界は大きく変わることなく、穏やか…ではないが戦争もない平和は日々を送っていた。
「あらA令嬢、どちらへ?」
『ご機嫌よう。スティナータ嬢、近頃勤めを賜りまして城へ』
「そうでしたの、一体何をなされますの?」
『それは…ごめんなさい、守秘義務を課せられておりますので』
ペコッと会釈をすると令嬢は微笑んで手を振ってくれた。今日も頑張らねばと、心の中で気合いを入れ私は城へと向かった。
「……っ!」
だから、彼女が一体どんな表情で私の背を見ていたのかを私は知らない。
『総統閣下、お茶をお持ちいたしました』
「……入れ」
特に変わりもない遣り取りに部屋の扉を開くと、総統は元より怖い面をより一層怖いものにしていた。
彼を知らない人に鬼だと言えば、きっと誰しもが信じるだろう。
「お前は存外物覚えが悪いな」
『申し訳ありません…?何か粗相を……あ』
極悪人相でぶすくれる総統に、私はいつだかの押し問答を思い出した。
『グルッペン様、でしたね。失礼いたしました』
「よし」
気は済んだのか「今日の茶菓子はなんだ」と尋ねる総統は、いつも通りの様子に戻った。
未だに彼の気にする所がわからないが、偉い人は皆そうなのかもしれない。
どうしてこうなったのかと言えば、事の始まりは2回目の仕事の時間に戻る。
『総統閣下お茶のご用意が出来ました』
「…お前、また俺の名前を忘れたのか?」
『ご冗談を。一度たりとも忘れたことはありません』
「なら、名前で呼べばいい」
『グルッペン ・フューラー総統閣下…?』
「なんでそうなるんだ」
何でも何も、たった今貴方様が名前で呼べと言ったのですが?理不尽な問いに眉を顰めると総統はハァと溜息をついた。
「それでは返って長くなるだろう」
『では、グルッペン総統閣下と』
「長い」
『グルッペン総統』
「……」
もうこれ以上どうしたものか、困りに困っていると不意に背後の扉が開かれた。
「入りますよ、この間の……失礼お茶の時でしたか」
『ご機嫌ようございますエーミール様』
「こんにちは、Aご令嬢」
ふんわりと微笑む彼は、総統が拵えた紙の束の上に自信が持ってた書類を更に積んだ。
「いい香りですね。ダージリンですか?」
『はい、お好きですか?』
「ええとても…なんやグルッペン睨まんといてや」
ラッキーゲーム
hoi
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山西 陽朔 - 考えさせられる小説ですね!次回作は南無妙法蓮華経と唱えることで万人が成仏するということを作品にするのはいかがでしょうか? (4月30日 18時) (レス) id: aaea05e353 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - ユッケさん» コメントありがとうございます。好きだと言って頂ける事が何より励みになります。続編でも気長にお付き合いくださいませ! (2019年8月24日 17時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 未人さん» ありがとうございます!続編も気長にお付き合いくださいませ。 (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 黒コマ先生さん» コメントありがとうございます!続編もぼちぼち張り切って参りますので宜しくお願い致します! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 紅葉さん» コメントありがとうございます!初期からのご愛読恐悦です。続編でもよろしくお願いいたします! (2019年8月24日 16時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年8月4日 8時