. ページ3
なんだその可愛い理由は。
何の前触れもなく唐突に食らった眩しい彼女の笑顔に、俺は思わず手で顔を覆ってしまった。
彼女がこれからの人生で消費するアイスをすべて俺が買ってあげたい…!
とりあえず最初の1個として、赤いパッケージのアイスを彼女の手から奪い、購入することにする。
『え、伊沢さん!』
「いいから」
会計を済ませて外に出ると、再びの灼熱地獄が待っていた。
これではオフィスに戻った頃にはアイスはドロドロに溶けてしまっていることだろう。
「食べながら帰ろうか」
『はい…ありがとうございます』
ビニール袋に入った赤いパッケージのアイスを取り出し、彼女に手渡す。
俺も自分のアイスを取り出し、ビリッと包装を破った。
現れた木の棒部分を一瞬だけ手に持ち、アイス部分を口で咥える。
咥えている間は両手が空くので、その間に彼女から不要になった包装を回収し、自分の分と一緒に袋の中へ。
わずか数秒アイスを含んでいるだけで、口の中は一気に氷点下へと下がっていった。
シャク、と一口齧ると、途端に押し寄せてくるキーンという頭痛。
きたきた。
夏はやっぱりこれだ。
頭を押さえながら頭痛に耐え、俺はソーダ味のアイスを黙々と食べ進めた。
だが、隣を歩く彼女は一口一口をじっくりと味わっているようで。
それは一向に構わないのだが、この気温だとすぐに溶けてきてしまうのではないか。
…と思っていたら、やはり木の棒を伝ってバニラアイスとチョコのコーティングが混ざった液体が彼女の指先へ。
『あ、』
指についたそれを、小さな舌を出して舐め取る彼女。
その仕草に、俺の心臓がドキリとした。
早く食べてしまおうと懸命に食べ進めていく彼女を、俺は真っ直ぐな目でじっと見つめる。
その口元についたチョコレートをぺろりと舐める一瞬さえ、俺は見逃そうとはしなかった。
とっくに自分のアイスは食べ終えていたのだが、彼女の様子を見ながら思わずゴクリと生唾を飲み込む。
ただアイスを食べているだけなのに、なぜかそのさまが妙に艶かしくて。
そう感じてしまうのは、俺が不純だからだろうか。
あたりを見渡すと、炎天下のせいか出歩いている人の影は少ない。
俺はさりげなく彼女の腰にスッと手を回すと、彼女は残り二口くらいになったアイスを片手に、目を見開いてこちらを見上げた。
『い、伊沢さん、人が…!』
「誰も見てないよ」
真剣な目つきでそう言うと、彼女は俺の気持ちを察知してくれたようで。
447人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年8月5日 12時