宇宙の宿り主 ページ7
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クラシックのピアノの音から、ジャズ風の音楽へ。
スツールを引き、となりに座った男――――顔はまだよく見ていない――――やけに清潔なにおいを振りまくその男は、グラスをひとつ傾け、そして。
「ここ、星がよく見えますね」
そう言って、しずかに微笑うのだ。
わたしもまた手元のそれを煽り、鼻に抜ける香りにすこし酔いを覚えながら、
「あなたにも見えているの？」
ばかばかしいほど明るい都会の街の空を見上げる。
もちろん、そこに、星などひとつも光っていない。
それでもわたしには見えていたのだ。
白く輝く天体が、いくつも浮かんでいる様が。
「うん。見えてるよ」
「…………」
「面白い返しをする子やなあ」
一瞬、男の言葉に西の訛りが混じった。
わたしは途端に打ちのめされる。
なつかしく、どこか傲岸な、その語尾の。
「……お嬢さんは宿泊客？」
奇妙だった。
こういうことには慣れているはずなのに、お嬢さん、なんて呼ばれたせいか――――自分がひどく子どもで、純情な女の子のように思えた。
「いちおう……パーティーに出てたけど、あんまり退屈だったから」
「へえ。抜け出してきたんや」
「……おにいさんは？」
「あは、俺まだお兄さんて呼んでもらえる？」
くつくつと喉の奥で笑う声。
テーブルを伝い、かすかな振動が届く。
「友人の結婚式、てトコかな」
彼は酒をなめ、すこしの間をもって答えた。
このホテルでは、いつもどこかでだれかの披露宴が行われている。
ふと、右の頬に焼けるような視線を感じたけれど、わたしは決して振り向かずにいた。
ゆったりとグラスを回してみる。
液体に映りこんだ街の光が、夜の海の水面のようにきらきらと輝いて、きれい。
「おにいさんはお酒、好きなの？」
わたしは言った。
さほど興味がなかったせいか、とても少女じみた言い方になった。
「せやなあ……まあ、割と飲むほうやな」
とくに興味はないのだけれど、この男のことは、でもべつにきらいじゃないと直感する。
おそらく、いやきっと――――このひとは、わたしと似た類いのものを持っている。
「バーとかよく来るん？」
「……たまに」
「ふうん、ひとりで？」
「うん」
彼のなかには宇宙が存在する。
そしてそれは、わたしのなかにも。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
