暗がりの片隅の ページ37
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知らない番号――――相手は知っているが、登録していない番号――――からは、定期的に着信が入った。
11桁の数字の羅列を、もう暗記してしまったほど。
それはよくわたしのスマホを鳴らしたが、わたしは一切応じていなかった。
代わりに、その番号を見るたびに思い出した。
あの小柄な手や足や肩や胸が――…わたしに絡みつき、求めるさまを。
A、と。
掠れた声で引き寄せるさまを。
彼の花は、もうすっかり肌から消え去っている。
月曜日は、大抵の部活動がオフだ。
教員としての仕事を終えた後、出版社に出向いて担当の編集者とすこし話をした。
桐島さんという女性の編集者だ。
年上で、独身のキャリアウーマンだが決してきつい印象はない。
「藍子先生は波があるのがネックねえ」
レモンを落とした紅茶を啜りながら、桐島さんは言った。
「芸術家には多いタイプだけどね？先生の作風は、ほら、言葉の芸術って感じだし。書くの、苦しかったりする？」
「まあ……量産型ではないと思います。自分は、自分が哀しいときに筆が進むので」
「感情に左右されやすいのね。とくに若い内は仕方ないのかもしれないわ。最近はライトノベルやケータイ小説が流行って、藍子先生のように独特で情緒的な言葉遣いをする若手が少なくなってきてるから、こちらとしても無理強いはしたくないのよ」
本が売れない時代なんていやね、と、彼女は窓の外ににじむ夕焼けを見ながら切なげに言う。
わたしはシュガーポットを触った。
白い陶器のそれの中には、小さな立方体の塊が行儀よく収まっている。
「ねえ、今度雑誌に載せる短編を書いてみない？」
桐島さんのグレーのスーツが、夕日の真っ赤に染まっている。
夜、一度家に帰る予定で最寄り駅に降りた。
自分がひどく渇いている気がして、また、あのとうめいな青い酒を喉に流したいと思った。
ブルー・ムーンは、小説を書くときに取材の意味を持って飲んだはじめてのカクテルだった。
時折、わけもなくあの酒が恋しくなる。
今日は夜気が濃い。
暗がりの端に、見覚えのある車が停車しているのを見つけた。
ただの住宅街の中で、その高級車は妙に浮いていた。
わたしはぱたぱたと足音を鳴らし、路肩に停まったそれの運転席側をノックして、中の人影に窓を開けさせる。
「……アイドル様がこんなところで何してるの」
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
