死んだくらげ ページ33
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こういう休日を過ごすことに、わたしはほんとうに慣れていない。
会うといえばホテルか車か相手の家で、デートといえば、妹と街を歩くことを指した。
それがわたしのふつうで、常識だった。
だからかえってどうしていいかわからなかった、となりを歩くこの男を、どのようにしてたのしませればいいのか。
「Aさんはかわいいな」
と、三崎さんは言った。
車の中で、子どものようなキスをした後だった。
彼はわたしのリップグロスで濡れた唇をなめ、甘い味がする、と照れたようにわらった。
「大事にしたいんだ」
その言葉に、嘘はないように思えた。
恋人というのは、きっとこういうものなんだろう。
わたしはおそらくこれまでに、他人をあいしたことがない。
交際経験はあるけれど、そのいずれもが、ただ流されるままそうなっていたに過ぎなかった。
恋愛のなかで、わたしは死んだくらげだった。
自ら泳ごうとはせず、いつまでも波間に揺られるとうめいな水の塊。
夜は焼肉屋でごはんを食べた。
次から次へとわたしの皿へ焼けた肉を放りこむ三崎さんのようすを見つめていると、ふいにスマホがぶるぶると震えて、わたしはそれを取り出した。
【夜ごはん食べた?】
麻結からだった。
そういえば、彼女は明日からのフライトでロンドンに飛ぶと言っていたのだ。
【おいしいもの食べたい】
【お姉ちゃんと。日本のものがいいな〜!】
【ねえねえ、夜ごはん食べた?】
「……あの、三崎さん」
「ん?」
焼けた野菜もいっしょに皿へ盛りつけていた彼は、目を上げて首をかしげた。
「妹、呼んでもいいですか」
気をわるくするだろうか、とすこし不安に思ったが――――三崎さんは、逆にうれしそうに笑って快諾してくれる。
「Aさん、妹いたんだ」
「うん」
「俺会ってもいいの?彼氏と思われるかもよ?」
「べつに……いいよ」
彼はやっぱりうれしそうに笑っていた。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…!本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします! (2018年9月28日 0時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます! (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べに | 作成日時:2018年9月11日 21時