興味の対象 ページ29
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「ごめん……俺いまむっちゃへんなテンションや」
すでにどこかで飲んできたのだろうか。
それとも、何かとくべつなことがあったのだろうか。
こちらを見る彼の目はきらきらしていて、それが潤んだ宝石のように見えた。
その手が、わたしの前髪を触る。
眉の上できちんと切りそろえた前髪。
それを除けられると、空気に触れていなかった額が一瞬ひやりとする。
「かわいいおでこ」
そう言って、彼は満足そうに笑う。
わたしは黙って彼を見上げる、されるがまま、今度は顔まわりに垂れ下がった髪を耳にかけられる。
「耳、ちっちゃいなあ」
ピアスを着けた耳たぶの淵を撫でられて、思わず肩をすくめた。
鼻先に触れた彼の吐息が、リキュールのにおいに満ちていた。
今度はわたしの手を掴み、指の一本一本をなぞりながら、手もちっちゃい、とつぶやく。
わたしはすぐに興味をなくして、グラスに付着した真っ赤な口紅を拭いつつ、ぼんやりと店内を眺めた。
彼は変装と呼ばれるものをなにひとつしていなかったけど、こちらのようすに気づいている客は見当たらなかった。
街やパーティーとはちがい、此処ではそれぞれがそれぞれに流れる時間をたのしんでいるのだ。
「たのしい？」
「ん？」
「手、触っててたのしい？」
わたしの問いに、わたしの小指を撫でていた彼は目を細めて答える。
「むっちゃたのしいで」
わからなかった。
このひとが今、何を考えているのか。
「自分、へんに達観しとるよな」
「……なに？」
「いや？俺がそのくらいのときはそんなんやなかったな〜って。もっとアホしとったし、なんも考えんと遊んどったのに」
「…………」
空になったグラスを見つめる。
底のほうで、じっくりと時間をかけて氷が溶けていく。
「溺れてるみたいやんな。Aって」
店内はしずかで、古いレコードの音と客の話し声がしゃぼん玉のように浮遊していた。
わたしは彼が言った言葉の意味を、よく考えようとしたができなかった。
アルコールが浸透して、うまく思考がまとまらなかったのだ。
あるいは、今朝から感じていた眠気のせいで。
「なあ」
ぼうっとした頭に彼の声が届く。
粗目砂糖のような、吐息を多く孕む、低くてはっきりとした声が単刀直入に。
「俺、お前に興味あんねんけど」
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…！本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします！ (2018年9月28日 0時) (
レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます！ (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年9月11日 21時
