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マスクと前髪 ページ27

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「…………なんで」



わたしはホットコーナーの前で、レモンティーに伸ばした手を彼に掴まれたままの格好で、言った。

ふっと漏れたような息が鼓膜を覆い、肩がこわばる。

彼はマスクの中の唇をこちらに押しつけるようにして、答える。




「たまたま通ってん。俺もいま仕事中」




言われて店の外に視線を走らせると、すぐ目の前にスーツ姿の男性を乗せたミニバンが停まっている。

マネージャーだろうか。

ハンドルに腕を乗せ、退屈そうに交差点を眺めている。





「A」





その声に視線を戻せば、彼の目はまっすぐにわたしを見下ろしていた。

黒いマスクと、キャップ帽と、すこしパーマの当たった前髪からのぞくガラス越しのふたつのひとみ。

どろり。

胸の内側で、何か重ったるいものが渦を巻く。





「今夜、空いてる?」





わたしはすでに彼の連絡先を消去している。

でも、たぶんおそらく、このひとはちがうのだ。


彼は目を細めて笑い、ふとコーヒーの缶を手に取るとそのままレジに向かう。


そうしてわたしの返事も聞かないまま、振り向くことなく去っていく。









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夜。

仕事の疲れをまとったからだで自宅の最寄り駅を出る、同時にスマホが震え、着信を知らせていた。

鳴り続けるそれを、わたしはしばらく黙って見つめた。

すこし、迷って――――画面をスライドする。




「……もしもし」

『あ、出てくれた』




たのしそうな声だった。

音のひとつひとつが弾んでいて、からからとガラス玉のぶつかり合うような笑い声までついてくる。




「……べつに」




寒々しい風が吹く。

もうすぐ夏だ。

わたしは彼のたのしそうな声を聞いて、何故か、田舎の実家でつるした風鈴のことを思い出していた。

海の水のように青くてとうめいで、きれいな音を出す風鈴だった。






『今どこにいてるん?』

無防備なからかい→←痛くて、奇妙な



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設定タグ:関ジャニ∞ , 安田章大 , 夢小説   
作品ジャンル:恋愛
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…!本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします! (2018年9月28日 0時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます! (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:べに | 作成日時:2018年9月11日 21時

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