ねじれの位置と三日月 ページ18
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二十時。放課後の部活動を終え、わたしはだれもいない更衣室であのメモ用紙を取り出した。
ポケットに入れていた、くしゃくしゃの紙。
11桁の数字の羅列は、薄暗い蛍光灯の下で黒く浮かび上がって見える。
「…………」
ほんとうはもう会いたくない。
顔だって見たくない。
相手は芸能人だ。
ただでさえ一度寝た男と関わるのは避けているというのに、更なる厄介ごとに巻き込まれるのは御免だった。
だけど。
今回に限っては、すこし状況がちがう。
重い指をどうにか動かし、ため息をこらえて、長いコール音を耳に当てた。
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二十一時、指定された店に向かう。
鍋料理が有名な店らしい。
扉を潜ると、恭しく頭を下げる女性の店員に迎えられた。
「あの……予約した山田ですが……」
「山田様ですね。お待ちしておりました、お連れの方がお見えになってます」
敷居の高い店――――このような場所に入るのは、麻結の恋人のおかげで幾らかあるとはいえ――――やはり落ち着かない。
案内された角の個室、そこに、あの男の姿がある。
「おつかれ」
ふわっと笑うその顔にマスクはなく、帽子も外され、やわらかな黄金色が――――この前は真っ黒な髪だったけど――――照明に揺れていた。
こうして見ると、やはりきれいだ。
年相応、には当然見えない。
明るい髪色も痛々しく見えず、それはむしろこのひとにとてもよく似合っている。
まるで生まれ持った性質のように。
人に見られている人というのは、こうも生き生きとしているものなのか――…
「いつまで突っ立ってるん?」
彼は言い、大きな目を三日月型に細める。
「こっちおいで」
目の前には、テーブルを取り囲むようなソファ席。
わたしはわざと彼から距離を置き、その角っこに腰を下ろす。
机の角。
彼は、おどろいたようにぱちぱちと瞬きをした。
「…………ねじれの位置」
それだけを言い、すぐに黙りこむ。
四つ角を支えるテーブルの支柱に、ミルク色の裾のフリルから伸びた両足を絡ませてみる。
「……変わったコやなあ」
そう言って、彼はうれしそうに喉を震わせた。
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べに(プロフ) - 516516516tさん» こちらのほうも…!本当にありがとうございます(T T)双子とはまったくテイストが違いますが、これからもよろしくお願いいたします! (2018年9月28日 0時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
516516516t(プロフ) - 双子と共にこちらも読んでいます! (2018年9月26日 21時) (レス) id: 06c5e90194 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べに | 作成日時:2018年9月11日 21時