その唇は奪えない【文スト】 (ページ4)

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外は今日もまだ暑い。

僅かの生命しか持てない蝉たちの鳴き声は喚いているようにしか聞こえない。

木の幹で美味しそうに蜜を舐めているカブトムシは私たちの姿を見ても怖がることを知らない。

正直、夏は嫌いだ。

「やっと裏切り者を見つけてくれたか太宰、待ちくたびれたぜ」

私の暗くなっていた気分を晴れさせるように中也は私に話しかけた。
彼の口もとは笑みを浮かべている。

「流石太宰さんだよね…
どうやって見つけたんだろ」

「あの青鯖のことだァ。
得意とする拷問とかで吐かせてるんだろ」

私たちは今、マフィアの経営する
あるホテルに向かっている。

首領の話によれば、太宰さんは今日は其処に泊まっているらしい。

ホテル内に入ってしまえば、
私たちの間をここは別世界か、と思う程の冷たい風が通り過ぎた。

「……此処は天国かよ」

ボソリと呟く中也。

確かに…今日のこんなに暑い日に中也のような格好で外を出歩くのは勇気が必要だ。

全身真っ黒なマントをなびかせ、
日よけになるための帽子さえも主色は黒なのだから、役割を果たしきれていない。

まだ学校に通っていた時代、
黒は光を吸収し、白は光を離す…
等と言ったことが一時期流行った。

何故流行ったかは覚えてないが、
ひとまず…中也の服装が暑い事には変わりない。

「暑そ…」

今更ながら、言葉となった私の率直な気持ちは中也に聞こえてたらしくて、

「あ？
それは誰に向かって言ってンだ手前」

「私のことかなー多分」

だから私は適当に誤魔化した。

「608、此処であってンだよな」

受付の人に太宰さんのいるであろう部屋の番号を訪ねた私たち。

幾つものドアの前を通り過ぎてしまえば、
『608』と書かれた部屋の番号とドアが現れた。

「うん。此処に太宰さんは、いると思うよ」

そう呟いてドアノブに触れようとした刹那、私の脳裏にある言葉が通り過ぎる。

『……これ以上、私にリイナのことを聞くようだったら…次は殺す』

昨日、太宰さんに言われた言葉。

リイナを守りたいと決めたと同時に
太宰さんへの恐怖も芽生えていたのだ。

私は戸惑う。

このまま私が扉を開けた刹那、太宰さんが笑顔で銃口をこちらに向けて出迎えているのではないか…

彼がそんなことをするなど容易に考えられる。

───あの人ならば、きっと私をも殺す。

私はドアノブに触れるのを辞めた。

───その時だ。