溺愛される鬼少女② (ページ40)

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あの日の少女ページ40

小芭内 side

俺に木刀でかかってくるA。
…なんのつもりだ。

たまたま蝶屋敷を通りかかるとAがひとりで鍛錬していたから見ていたらいつのまにかこうなった。

「話しても分からないですもん！」

少し怒ったAが勢いよくかかってくる。
それを全て木刀で受け流す。

ああ。昔もあった。
こうやって鍛錬したことが。

・

「小芭内さん！手合わせお願いします！」

「ちゃんと師匠に見てもらっているのか」

「はいっ！強くなりましたよ！」

まだAが鬼殺隊に入る前。
俺はよく手合わせを頼まれてた。

非番の日には必ずと言ってもいいほど鍛錬に付き合っていた。

「…今日も俺の勝ちだ」

「ひゃあ、やっぱり強いですね」

当たり前のことだが俺が負けることはなかった。

「まだまだだな」

「もっと頑張ります！」

終わればいつもふたりで話した。
その時間はこんな俺でも陽に当たっていられる気がした。

「小芭内さんはどうして鬼殺隊に？」

「…どうしてだろうな」

家族を殺されたA。

もう少し俺が早く着いていればあんな事にはならなかっただろう。
そう責められると思っていた。
それが当たり前だった。

「…いつか教えてくださいね」

「お前が一人前になったら教えてやらんこともない」

Aは俺に"ありがとう"と言った。
命を救ってくれて、ありがとうと。

だけど俺は知っている。

誰もいない時に泣いていることを。

「小芭内さんはケチだけど優しいですよね」

「ケチだと？」

「だって自分のことなぁんにも教えてくれない」

だから守りたかった。
この弱々しい少女を。

ただお前は守られていればよかったんだ。

何気ない日々が続けばよかった。

・

「…ッ」

考え事をしていたせいだ。
Aの木刀が俺の木刀を弾き飛ばした。

「あっ、小芭内さん！ごめんなさいっ」

その衝撃で手から血がでた。

「…いや、いい」

「だめです！今すぐ手当しますから！」

少し血が出ただけでこんなに心配する。
鬼殺隊なら血が出ることは当たり前だろう。

「…馬鹿だな、お前は」

俺も。全員馬鹿だ。

「…なに笑ってるんですか」

そう言いながら自分も笑っているだろう。

俺は守りたかったあの日の少女に
いつのまにか心を守られていたのかもしれない。