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いつの間にか外が真っ暗になって空にはレモンの形をした月が昇る頃。悪魔が言いました。
「ひとつだけ、お願い聞いてくれる？」
男は少し、どきっとしました。悪いことではないだろうけれど、もしかしたら。そんな気持ちをかき消すように笑って、なに？と返しました。
「怪我が治るまでここにいて良いから、帰るときには声をかけて。知らない間にいなくならないで」
まるで道の端に捨てられてボロ布のようになった猫みたいな顔をして言うので、男はさっき自分が一瞬だけ考えてしまったことを愚かだったと思いました。
自分が帰ったら、悪魔は寂しくなるのだろうか。またひとりぼっちで、この大きなお城の中で、ひっそりと生きるだけの者になるのだろうか。男はそんな風に考えます。
もとより男は帰るという選択肢を用意していなかったけれど、それを隠して口を開きました。
「帰らなきゃ駄目かな」
男の言葉の意味を、悪魔は理解できませんでした。帰らなかったら、どこでどうするつもりなんだろう。まさかずっとここにいてくれるんだろうかと考えて、そんなのはありえないと首を振りました。
男が、自分みたいな嫌われ者のそばにいてくれるなんて、そんなバカみたいなことを考えるはずがないと思ったのです。悪魔は、もしかしたら自分の住んでいる大きくて豪華なお城が気に入ったのかもしれないと思いました。
「ここが気に入ったの？」
「違うよ。お前が気に入ったんだよ」
どうして、なぜ、悪魔はそんな問いを投げようとしたけれど口から出てきませんでした。
そうだきっとこれは夢なんだ。自分を気に入ったなんて言葉を誰かから言われるなんて、そもそも人間とこんな風に会話するなんて、夢でなければありえない。
そうか、だからこの男は自分が夢に描いたようなことを言ったり、したりしてくれるんだ。悪魔は、そう思いました。
目が覚めたら大好きな花畑だといいな、可愛い花の素敵な香りに包まれて目を覚ましたいな、そんなことを考えている悪魔に、男は言います。
「俺がここにいたら迷惑？」
どうせ夢なら好き勝手言ってしまおう、と悪魔は口を開きます。
「迷惑じゃないよ。好きなだけ、ううん、ずっとここにいて欲しい」
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7oh(プロフ) - タルトコさん» タルトコさん、コメントありがとうございます！幸せな気持ちになってもらえてよかった…！こういうのどうなんだろうとか、個人的には好きな世界観だけどこれまでのを読んでくれている人には刺さるのかどうかとかちょっと悩んだりしましたｗこちらこそありがとうですよ！ (2020年7月13日 1時) (
レス) id: 886f4a5b1d (このIDを非表示/違反報告)
タルトコ(プロフ) - こんばんは。恐れられる程の美貌でありながら無垢な心を持つ悪魔の可愛らしさ！悪魔だけれど天使のようなその笑顔に男は心が温かくなり、その温かい眼差しで悪魔は幸せを感じて…と素敵な無限ループを想像しつつ眠れる私もまた幸せです。ありがとうございました。 (2020年7月12日 2時) (レス) id: 276045d76c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：7oh
| 作成日時：2020年7月11日 19時
