13 ページ13
友達の、ダンスの上手なウサギがいつか言っていました。ひさしぶりに住処から出て食べ物を探していたときのこと。
おなかがいっぱいになって帰ろうとしたところで待ち構えていた狼に食べられそうになったウサギは、必死に逃げるうちに足を滑らせて怪我をしました。その時悪魔に助けてもらった、と。
きれいな声で歌う鳥も、小鳥の頃に木から落ちて泣いていたら悪魔が助けてくれたと言っていました。
たまに一緒に探検しては美味しい木の実を教えてくれるキツネは、お気に入りの木の実をそこに植えたのは悪魔だと教えてくれました。
遠くからしか見たことのない悪魔は、もしかしたら大人たちが言うようなひどいことをする生き物ではないかもしれない。いつか自分も助けられたり、悪魔のやさしい一面に遭遇するかもしれない。
そんな風に考えていたある日、小鹿は狩人たちに両親や仲間を撃たれ自分も狙われて命からがら逃げました。
父さんも母さんも助からないだろう。何故ならば盾になり守ってくれたのだから。生かしてもらったのだから逃げなければならない、と食らってしまった猟銃の弾が掠った脚をぴょこぴょこさせて縋る思いで城まで行きました。
人間に見つかったら今度こそ殺されてしまう。悪魔なら、自分を助けてくれるだろうか。そんな思いで、天気が良いから外に出てくるかもしれないと悪魔を待っているうちに意識を失って、気がついた時には城の中でした。
その時は手当てをしてもらって命を助けてもらったのに、お礼も言えませんでした。言っても言葉が通じなかったのだから。
そうして、小鹿は不思議な力を持っている樫の木に毎日毎日、何年もお願いすることにしたのです。「どうか、俺を悪魔にしてください。何でもします」と。
バカなことを、と最初こそ樫の木は相手にしませんでしたが毎日やってきては必死に頼み込む様子にやがて根負けして話を聞いてくれるようになりました。
小鹿が大人になり、老いて命が尽きるいま。それまでずっと毎日同じ願いを口にする彼に、樫の木は情けをかけたのです。
雄鹿は何となくこれが同情というものだというのは、わかっていました。それでも祈るような気持ちで痛みに耐えていると、やわらかな風が吹きました。
それから少しして、ゆっくりざくざくと少しずつ近付いてくる足音が聞こえました。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 92人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
7oh(プロフ) - タルトコさん» タルトコさん、コメントありがとうございます！幸せな気持ちになってもらえてよかった…！こういうのどうなんだろうとか、個人的には好きな世界観だけどこれまでのを読んでくれている人には刺さるのかどうかとかちょっと悩んだりしましたｗこちらこそありがとうですよ！ (2020年7月13日 1時) (
レス) id: 886f4a5b1d (このIDを非表示/違反報告)
タルトコ(プロフ) - こんばんは。恐れられる程の美貌でありながら無垢な心を持つ悪魔の可愛らしさ！悪魔だけれど天使のようなその笑顔に男は心が温かくなり、その温かい眼差しで悪魔は幸せを感じて…と素敵な無限ループを想像しつつ眠れる私もまた幸せです。ありがとうございました。 (2020年7月12日 2時) (レス) id: 276045d76c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：7oh
| 作成日時：2020年7月11日 19時
