「」I miss you…【MS】 (ページ18)

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また廻ってきた二度目の桜の季節の頃、よく智君は「おれにしときなよ」と言った。僕は首を縦には振れなかった。
付き合うという線を引いて智君に「すき」と毎日のように言うようになれば、きっと気持ちもそうなっていくんだろう。でも既に体を開いているのに心を欺く事は出来なかった。どうしても、どうしても翔くんがすきだった。彼に言えなかった二文字を他の誰かに言いたくなかった。

ある休日、僕の部屋のベランダから見える桜を眺めながらパンを食べていた智君が何かを投げていた。

「何してるの？」

「餌撒いてんの」

読んでいた本に栞を挟んで側まで行くと、彼は食べかけのパンを小さく千切っては投げていた。

「やめてよ、虫とか来たら困る」

「ふは、パンを食べに来るのは鳥だよ」

「鶯なら良いけど鳩は嫌だな」

別段好きなわけではないけれど、木に咲く淡い花に似合うのは鶯だと思ってそう言った。鳩は単純になんか怖いから苦手。好きな鳥、ベランダに来て嬉しい鳥って何がいるかなと考えていたら彼が穏やかに呟いた。

「松に鶴、梅に鶯、桜に幕」

「花札？」

「そー。鳩は出てこないか」

寂しそうに笑う横顔を眺めて、そういえば智君の口から“鳥”という言葉が出るのは久し振りだなと思ったりした。