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「青い鳥は？」
「んふ、逃がしてあげた」
卒業式の夜、僕は、酔っ払っていた。それはもう絵に描いたような酩酊、呂律の回らなくなるほどに。元彼の失った恋の話なんて聞きたくもないであろう人に悲しいことを笑って話す、くらいには。
「羽根だけ残して消えたかぁ。じゃーおれと“遊ぶ”？」
「やだよ。僕はもうだれとも寝ない」
「そんなに好きなら逃がさなきゃよかったのに」
「だめなんだよ、でも、ずっと檻のなかに入れておきたかったなぁ」
テーブルに腕を放って頬を付けたら冷たくて気持ちよかった。感じる温度が現実を突き付ける。夢でも何でもなく今こうしているのが現実。もう翔くんには会えないというのが現実。
「鳥ちゃんも檻の中にいたかったんじゃねーかなぁ」
「まだ彼は空を知らないから」
「飛んだっきり帰ってこなくても後悔しないの？」
「するだろうね。やっぱり閉じ込めておけばよかった、自分で飼い殺せばよかったって」
「すげぇこと言うじゃん」
智君は、ふはは、と笑った。でも本心だった。きっと僕はこの先長いこと後悔するのだろう、彼を手放してしまったことを。運命だったらまたいつかどこかで出会えると自分に言い聞かせているけれど、確信なんて何処にもなかった。
もし仮にばったり会うことがあったとしても、その時の彼は僕の知っている愛おしいひとでは無くなっている可能性の方が高いように思えた。せめて、せめてそれならば幸せな日々を送っていて欲しい。僕みたいな悪い大人に良いようにされたことなんて忘れて、僕のことなんて忘れて笑っていて欲しい。嘘だ。覚えてなくて良いから、忘れないでいて欲しい。
「ぅ、う、」
「泣き虫だなぁ。慰めよーか？」
「いらない」
智君の言うそれは体での事を指しているのがわかっていた。付き合っていた頃、僕が辛い時はいつもそうしてくれたから。
普段は僕がタチなのに、そういう時だけ逆になって。何の確認なのか決まって行為に及ぶ直前には「どっち？」と聞かれた。自棄になって大体どうでもよくなっていた僕も決まって「どっちでも良い」と答えた。それが合図みたいなものだった。
馬鹿じゃないかと思うくらい激しく酷くされて、何も考えられなくさせられて。それで少し、心が軽くなった事が何度あったかわからない。けれどそこには縋りたくなかった。翔くん以外の肌に触れたいと思わなかった。
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作者名：7oh
| 作成日時：2019年7月13日 20時
