泣き明かした少女 ページ7
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今日という日が、私の人生のターニングポイントなんだと思う。
「リラックスしていてくれ。」
「……」
ジュージューと、家庭的な調理音が耳に入る。
「ワン!」
あ、犬だ…
「この子は何という名前なんですか」
「ハロ だ。」
「ハロくん…こんにちは。」
「ワン!ワン!」
可愛い…
何よりも純粋な円らな瞳が、愛くるしい。
「ほらハロ、ご飯だぞ」
「ワン!!」
「…!」
いつの間にか、降谷さんが隣にいた。
「……動物好きなんですか?」
「え?あぁ、まぁ…」
動物好きな所も似ている、令くんと。
「さぁ、君も座って。適当だが味には自信がある。」
「美味しそ…」
オムライスだ…
「いただきます…」
「ん。」
たまらなく美味そうで、
すぐさま一口…
「美味しい…」
「当然だ。」
フワフワの卵が、ホクホクとした米を優しく包んでいる。
この上ないぐらい、優しい味がした。
「んっ…美味し…」
何だろう、この感じ…
こんなに優しい味、初めてだから?
わからない、けど
「美味しい…美味しいですッ…」
「そうか。」
優しい味と、
優しい眼差しに…
ポロポロと、涙が零れた。
「ううっ…美味しいよぉ…」
「……」
温かくて優しい、家族の味。
遠目から恋焦がれることしか出来なかった愛情というものが、
一口に、ぎゅっと詰まっている。
こんな美味しい物を毎日食べられるなんて、
世の人は皆、幸せなんだなぁ…
「うっ…ううっ…」
令くんにも、食べてほしい、のに…
「うぁっ…令くんッ…」
もう、この世にはいない。
「うっ…グスッ…美味しい」
「ほら、無理に詰め込むな…」
鼻をすすって泣きながら、一口、もう一口と口に入れようとする私の手を
降谷さんは、優しく握って止めた。
「ゆっくりでいい。君の気持ちを、吐き出してもいいから。」
「うぁっ…うわぁぁぁぁん」
その夜、私は気が済むまで泣いていた。
「令くんっ…ごめんねっ…」
「……」
令くんがいなくなってから、私は完全に心を閉ざしていた。
泣くことさえ、忘れていた。
「少しずつでいいから…取り戻すんだ、君を」
「うぁっ…ううっ」
今の私には、
そのオムライスだけでも、十二分に温かかった。
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juno108(プロフ) - とっても面白いです!続きがすごく気になります! (2020年5月20日 13時) (レス) id: 73960369a7 (このIDを非表示/違反報告)
さち - おもしろかったです。続きが早く読みたいです。よろしくお願いします。 (2019年2月11日 21時) (レス) id: 70b86fd223 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴこ | 作成日時:2019年1月13日 2時