雨に濡れた日 4

192 ページ48

「先輩がダメとかじゃないです、


でも今はまだ、誰とも向き合う意志がないんです」








紫耀との日常を失ったことで、明らかにバランスを崩している。




身勝手な振り回し方をしただけの最低な彼女だったとしか言いようのない私であっても、

一応これでもそれなりに、あの人のことを心から愛し必要としていたのだと、

失った時のダメージの大きさが分かりやすく教えてくれた。









「……待つのはいいよ。





でも正直俺は、今もそんな風にAに思われてるあの人が羨ましい」









"ちっとも羨ましくない"






そう言ってくれた廉くんの優しさが、

その時生まれた"幸せになりたい"という私の意志が、

まるで皮肉な程に無意味なものになってしまうではないか。









どれだけ悲しくたって苦しくたって、その理由が誰かを想う事ならば、それも一つの愛の形だ。




だから自らの心を押し殺して強がることや離れることは、弱さや逃げではない、

むしろ優しさでありそれこそ強さなんだと、

紫耀との恋が教えてくれた気がする。








だけど私は紫耀みたいな強さを持てない。








いっそのこと、もっと別の苦い感覚を求めないとやっていけない。









「………先輩、煙草ください」



「は！？」



「……やっぱ自分で買います」



「ダメダメ！絶対吸わせないからね」






コンビニにせっかく駐車したのに、秒で内側にロックをかけられてしまった。






車ごと元来た道へ。





「ちょ、休憩は、」





「はい引き返しましょう、さようなら」





「なんで、」





「煙草なんて悪い人が吸う物だよ」





「………」






「………何その目」








「………何でもないです」









口にしたい指摘を抑え視線を正面に戻し俯いた私に、先輩は冗談を続けてはくれなかった。









「………言っとくけど俺は悪い人だよ。



あの人と違って俺は、Aが手に入ればAの幸せとか気持ちとかどうでも良いんだから」








……そこまで、言ってしまわないで。









「………じゃあ、尚更吸わせてください」





「………」







いっそのこともっと苦みを。

193→←191

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す