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わたしの足を気にしてゆっくり歩いてくれる先輩の体温があたたかくて、ああカンタくんが来てくれたんだ、とようやく認識した。
カ「…俺は、入っていいの?」
わたしの家の玄関まできて、眉を下げたカンタくんが苦笑した。わたしが逃げたから、きちんと確認してくれたのだと気付いて消えたくなった。
『うん、どうぞ』
それこそ消えそうな声しか出なくて情けない。カンタくんはほっとしたように呼吸をしてから、お邪魔します、と呟いた。
靴を脱いで踵を見ると、左足に靴擦れの傷ができていた。傷を見ると急に痛い気がしてくる。
カ「・・・たばこ、のにおい」
『え』
びっくりするほど近くにカンタくんの顔があって、身を引こうと一歩下がるのを阻止するようにカンタくんの腕が腰に回った。
カ「・・・え、吸うの?」
『す、吸わない、』
カ「じゃあ誰といた?」
首あたりを舐めるように見て、不機嫌そうな顔をしたカンタくんに耐え切れずに距離を作ろうともがくけど、しっかり抱えられてそれもできない。
『や、あの、…の、飲み会、あの、会社の』
左耳にキスするみたいに擦り寄ってカンタくんはまた、たばこの匂い、と不機嫌そうに言う。わたしの答えは聞こえているはずなのに、解放されず、あろうことかスカートのホックをはずそうとしてくる。
『な、なに、なんで、』
カ「シャワー浴びてきて。たばこの匂いやだ」
さっきまでの不機嫌そうな声色ではなくなったけど、妙に真剣で怖い。慌ててわかったから自分で、と言ってカンタくんの腕から逃げる。
カ「いってらっしゃーい」
目が据わった彼氏に見送られて、脱衣所の扉を閉めてようやく深呼吸した。
『・・・あの』
カンタくんが待っていると思うと、逃げた罪悪感もあってゆっくりシャワーを浴びることはできず、急いで浴びて出た。わたしの家にある小さなソファに座ってパソコンを開いていたカンタくんは、わたしを見るとソファをぽんぽん、と叩いてわたしを呼ぶ。
『・・・』
髪の毛も乾かさずに頭にタオルをかぶったまま、隣に座ると、すんすん、とにおいを嗅がれて。
カ「うん、」
『たばこのにおいしない?』
カ「うん、しない」
へらっと笑ったカンタくんはそのままわたしを見つめ続ける。なにかわたしが言い出すのを待っているみたいで、なにか言わなきゃ、と思ってできなくて唇を噛む。
つづく
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りい(プロフ) - 個人的に気持ちに余裕がなくて趣味を疎かにしていて、久しぶりに占ツクに来て、まっさきに学パロを拝見しました。社長室さんの小説、やっぱり好きです。素敵な作品を、癒しをありがとうございます! (2019年9月23日 4時) (レス) id: 23552ed598 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - ちひろさん» コメントありがとうございます!素敵な感想、本当に嬉しいです〜ノリノリで描いていったというよりは、すこし苦しみながらできあがっていったので、幸せを感じていただけたことを心から感謝します。ひみつのほうもぼちぼちやっていますのでまた読みにいらしてください〜 (2019年7月27日 22時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
ちひろ(プロフ) - 完結おめでとうございます!今更ながら、ひみつからきて読ませていただきました。もどかしい青春が詰まっていて、社長室さんの描かれるカンタくんととみなが先輩がたまらなく大好きです。とてつもない幸せに包まれました。ありがとうございます。 (2019年7月26日 11時) (レス) id: 04f6d975f4 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - じょん、さん» コメントありがとうございます!学パロで終わらせておけばよかったのに大風呂敷をひろげて2に続きまして、リアルタイムで呼んでくださった方にはご迷惑をおかけしました…!短編のほうは地道にやりますので、またお暇なときにでも覗いてやってください! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - 名無し9253号さん» お付き合いくださりありがとうございました! (2019年7月5日 0時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:社長室 | 作成日時:2019年6月5日 11時