甘く、沈む。《ars/k.n,s.s》 (ページ30)

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ラッキーカラーページ30

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今年は良く雨が降る。

さすがの二宮さんも面倒そうに傘を持参してるみたい。

今日はまだ雨が降り出してなくて、空は準備をするみたいにだんだん暗くなってきている。

降水確率は五十％で、昼間聞いてみたら二宮さんは折り畳み傘を持ってきたんだそうだ。

私はというと、都心の方は夜降るでしょうって天気予報のお兄さんが言ってたからちょっとだけ悩んだけど結局二宮さんと同じ選択をした。

この時期は電車が混むから、出来れば長い傘は持っていきたくない。

加えて言うならその時に見た占いで私の星座が最下位で、思わぬ再会があるでしょうとか言っていたキャスターのお姉さんがラッキーカラーは黄色だって教えてくれたから長い傘より黄色っぽい折り畳み傘にしたっていうのもあったりするんだけど。

とにもかくにも今週のお仕事もあと少しという金曜の夕方、早く針よ進めって願いながらさっぱり動かない時計を睨み続ける時間帯。

私は憂鬱な気分をぶつけるようにキーボードを叩いていた。

せっかくの金曜日だから今日は飲んで帰ろうと思ってたのに、明日から始まる仕事の件で必要だという作業を上司に頼まれてしまった。

小さくため息をつきながらキーボードに指を走らせていたら机の上のスマホが音を立てた。

通知画面にチャットのコメントが表示されてる。

『このあと相葉さんのとこで飯食うけど、おまえも来る？』

送信者が二宮さんだとわかってロックを外してチャットアプリを開く。

『行きたいですけど、ちょっと急ぎの作業があってすぐには出れないんですよね』

『別にいいよ。待ってる』

『先行ってていいですよ。時間読めないんで』

『そう？じゃあ先行って頼んでるわ』

『よろしくお願いします』

二宮さんがそれを読んだことを確認してスマホから目を離す。

人の向こうでデスクに座ってる猫背の背中を見ればつまらなそうに頬杖をついていた。

ちょっと伸びてきた後ろ髪の毛先がぴょんとはねていて今朝は時間なかったのかなぁなんて思いかけて二宮さんはそんなこと気にするタイプじゃないかと思い直して口元に笑みが浮かんだ。

あとで直してあげよう、もう今日も終わるけど。

窓の向こうにのさばる灰色の雲みたいに憂鬱な気分もこの後の予定を思えば晴れる気がして気合を入れてキーボードに指を滑らせた。

もしかしたらこれがラッキーカラーの力かもしれない。

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