非番はずっと恋模様

23．十分 ページ42

「ではA、運転させていただきます！」

「…おう」

いつもより張り切る彼女がいるのは車の運転席。俺は助手席で、ちなみに車は俺の。

「あれ？」

「A、シフト」

「…あ、これか」

張り切るのはいいが事故だけは勘弁してほしい。
同乗者が機捜なのに事故を起こされたらそれこそ隊長に何を言われるか分からない。


というわけで、


「一つ確認なんだが、免許あるんだよな？」


念には念を入れ確認する。


「もー。警察官の、しかも機捜の前でそんな嘘つくわけ無いじゃん！ほら！」

「…ならいいが」

彼女は嬉しそうに取り立ての免許を見せてくる。

「ねぇねぇ、なんかいつも歩いてたとこ車で通るの新鮮だね」

「そうか？」

それから車を出発させ、彼女の運転で近所のスーパーに買い出しへ。

「あ、でもかずくんはほぼ車でお仕事だからあんま分かんないか」

「なぁ、A」

「ん？」

「急になんで免許取ったんだ？前は車なんて興味ないって言ってたろ」

「うーん、一石二鳥かなぁって」

「一石二鳥？」

前を見ながら答える彼女に俺は聞き返した。

「うん。かずくんはさ、お仕事で車運転してるからプライベートでは嫌でしょ？それにさ」

「ん？」

俺も同じく前を見ながら返事をすると、


「私がお休みの日、勤務終わりのかずくんを署まで迎えに行ってみたいなぁと思って」


何をそんなに妄想してるのか、嬉しそうに答える彼女。


「え？」

「だってかっこよくない？『かずくん、迎えに来たよ』って、窓開けて手振るの」

「…」

「そしたら伊吹さんとかー、九重くんとかー、陣馬さんとかが、『志摩、お前良い彼女さん持ったなぁ』ってうらやましがるかなって」

「…ふっ」

誰一人として似ていないモノマネをしながら話しているのがおもしろくてつい吹き出してしまった。

「あ、ちょっと！なんで笑うのー？」

「いやいや、すごいストーリー展開をしてるなと思って」

「バカにしてる？」

「してないしてない」

ぶーぶー文句を言う彼女と、袖で笑う口を隠す俺。

「…こっちは真剣なのにー。あ！見て見て！今日スイカ安いよ！」

「ほら、よそ見しない。駐車」

「あ、そっかそっか」

ハンドルを握りながらちょっと前のめりになってる彼女の肩を引っ張り、

「十分だよ」

と言うと、

「何が？」

と駐車できるところを探しながら尋ねてくる彼女。


「お前は十分良い彼女だよ」 


そんな必死な姿の彼女の頭を雑に撫でてやった。

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