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「どんな所に座ってんの」
「いいの。この島は、自由だから」
答えになっていない気がしたが、その男は立ち止まった俺の前に飛び降りた。
そう言えば、こいつとしっかり話すのは初めてかも知れない。
「早く慣れるといいね」
「慣れるもなにも、1年だけだから」
「1年?」と不思議そうな顔をする彼。
その顔で、そう言えば転校の挨拶で告げる事を忘れていたと気づいたので、俺は、今回は1年限定の転校だと言うことを彼に伝える。
どんな反応をするか、少し興味があった。
だけど、彼はふうんと薄い反応をすると、その反応と相反する力で俺の肩に掛けている鞄の取っ手をぐいっと引っ張る。
よろけた驚きで、うわっという声が出た。
「じゃあ、早くこの島の事、好きになってよ!」
そう言って彼が走り出すものだから、俺もヨタヨタと早足で進む羽目になる。
今日は転校初日の事もあって、疲れたからといろんな人の誘いを断っていたのは彼も聞いていたはずだ。
なのに、有無も言わさず強制的にどこかに連行される。
ここを右に曲がれば、俺の家だという道も、止まることなく真っ直ぐ突き進んでしまう彼の後ろ姿を見て、「ああ…」と悲壮感漂う声が出た。
「ちょ、待って、わかった!行くから!着いてくから!離してよ!」
何ともこの状態は進みづらい。
俺のその返事を聞くと、振り返った彼はイタズラが成功した子供のような笑みを浮かべた。
そうして結局、彼と肩を並べてやってきたのは広い砂浜だった。
まだ少し肌寒さも残るこの春の季節では、まだ冷たそうな海水がゆらゆら静かに波立っている。
だけど、とても広大な景色だった。
遠くで、船の汽笛の音が響く。
耳をすませば、少しだけ打ち付ける波の音。
それ以外、無駄な音のないこの空間。
「裕翔にも早く、この島を好きになって欲しい」
「なんで、島の人はそんなにこの島が好きなの?」
純粋な疑問だった。
クラスの奴らも、早く魅力を伝えたいとそんな風に思えていたから。
「いずれわかるよ」
景色に交じる彼の2度目の満面の笑顔は、とても非現実的に美しかった。
「俺は東京がすごく好きってわけじゃなかったけど、なんかこういう景色を見ると、すごく遠くに来ちゃったんだなぁ…って寂しくなるよ」
「そう思って貰える東京ってやっぱり凄いところなんだね」
彼は、広い海を見つめてそう言った。
「でも俺が、この島の思い出を沢山あげる」
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あんこ(プロフ) - ユリアさん» ユリアさん!ありがとうございます。゚(゚^∀^゚)゚。時間かかってしまいすみませんでした!是非、ゆといの楽しんで頂けると嬉しいです!! (2018年9月30日 12時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
ユリア - あんこさん、完結おめでとうございます!遅くなってすみません。まだ最後まで読んでいないのでゆっくり読もうと思います!新作はやまいのですね!やったーー(*´ω`*)嬉しいです。新作の方も楽しみにしてます! (2018年9月30日 0時) (レス) id: 5d6e48b7e5 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - めめさん» ありがとうございます!!1番しっとりした作品にするつもりです。見守って頂けますと幸いです。よろしくお願いします! (2018年9月15日 23時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
めめ(プロフ) - すごくしっとりしたこのお話の世界観が好きです。更新頑張ってください! (2018年9月15日 22時) (レス) id: edc3e92603 (このIDを非表示/違反報告)
あんこ(プロフ) - 佐々木さん» 佐々木さんコメントありがとうございます(/*´ `)/いやむしろドキドキ初挑戦中です(笑)ytin.....頑張りたい!!!(笑) (2018年7月3日 22時) (レス) id: 3a4575744a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんこ | 作成日時:2018年6月16日 22時