＊ ページ8
「いっ…痛い！二宮くん！」
連れて来られたのはリビングから一番近い二宮くんの部屋。
二宮くんは私を壁際まで追い詰めると私の顎をくいっと持ち上げた。
「あっ…あのっ…」
も、もしかしてこれは…"俺が消毒してやるよ"的なやつ…？いやちょっと待って！
それはっ…ダメーッ……
「……はぶっ！？」
唇に感じたのは生温かいものではなく、ザラっとした"布"らしき感触。
二宮くんは羽織っていたカーディガンの袖を私の唇に押し当ててきたのだ。そして、
「いっ…痛い痛い痛い…！」
ゴシゴシと左右に唇をこすってくる二宮くんの袖。唇がもげそうだ。
「いっ…たいってば！！」
ドンっと二宮くんを突き離すと、その表情はさらにイラついて。
「お前、隙あり過ぎなんだよ」
お説教が始まった。
「す、隙って…さっきのキスのこと？あれはどうしたって逃げられなかったんだから！」
「顔を背けるとか、頭突き食らわすとか出来るでしょーが」
「頭突きなんてそんな乱暴なこと出来ません！」
「なんで俺が智にキスしなきゃいけねぇんだよ…」
「自分でした事でしょ！？私のせいみたいに言わないでよね！」
「お前が捕まるから悪いんだよ！…ったく。風呂入ってこよっと。全身清めてこよっと」
「あぁそう！私が悪ぅござんした！全身と一緒にその歪んだ性格も清めてこいっ！」
「はいはいそうさせていただきますよー」
「むむむ…」
もう、なんなのよっ！
こんな痛い思いまでして説教喰らうくらいなら、
「俺が消毒してやるよ的なやつのほうがよっぽどマシなんだからーっ…！」
「…」
「はっ」
しまった。
二宮くんの背中に向かって、心の声が思いっきり漏れてしまった。
これじゃまた彼の怒りに火がついてしまう！
と、ビクビクしながらその背中が振り向くのを待っていると。
「……バカ、相手が違うだろ」
二宮くんは振り向く事もせず、冷静にそう返した。そして誰もいなくなった部屋でやっと落ち着きを取り戻した私は、
「そうだよね…。相手が違った…ね。」
遅すぎる返事を扉に向かってポツリと零した。
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作者名：ミト
| 作成日時：2017年8月10日 18時
