＊ ページ32
「じゃあ…どうぞこちらに…」
人気の少ない所に路駐してあったのは黒いワゴン車だった。明らかに怪しい雰囲気。
これは誘拐とかで使われそうなやつだ。
けど、イケブラ好きに悪い人はいない。
そう信じていた。
それにほら…中には三脚とかレフが積まれている。この人は真面目なカメラマンさんなのだ。
………と、安心したのも束の間
「…！？」
その人は車に乗り込もうとした私の背中を思い切り押してきて。
「っ…」
一瞬で恐怖が襲いかかる。
"逃げないとヤバい"
脳は手足に暴れろと伝えた。
「や…やぁーッ…！！」
無心で手と足を動かし、その男の手から逃れようとした。
けど、"バンッ！"と扉の音が聞こえたその瞬間、私は途端に戦力を失ってしまって
(もう…ダメだ…)
完全密室のこの空間で、この太った男に跨られた私に勝てる自信など無い…と、全てを諦めた時だった。
再び開いた車の扉。
それは、その男が開けたんじゃない。
だって男はまだ私の身体に跨っていて、その手は私の手首を押さえつけている。
「な…なんだお前は…！」
慌てた様子で男が振り返ると、その後頭部の向こうから聞き慣れた声。
『なんだお前は、じゃねぇ…！』
「…っ！？ うっ…」
生々しく鈍い音が響いたと同時にその男は力を失い、そのまま車の外へと引きずり出されて行った。
どれほどの強い力で手首を押さえつけられていたのか、私の手はジンジンと痺れ始めて、この恐怖の車内で起き上がることも出来ずにいたら
「A…」
二宮くんの顔が、視界に現れて…
「行くぞ」
私の手を、しっかりと掴んだ。
二宮くんに支えられながら車を降りるとさっきの男は立ち上がり、運転席に逃げ込んだ。
そしてエンジンが勢いよくかかるとその車は動き出し、ものの数秒で姿を消してしまった。
「…」
私は…なんてバカな行動を取ってしまったのだろう
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作者名：ミト
| 作成日時：2017年8月10日 18時
