第10話 ページ10
自室に戻ったキノは少し腑に落ちなかった。
ーー………どうしたのかしら、ルル………いつものルルじゃなかった……あんなルルを見たのは初めてだわ……。
キノの心の中の声は、ブラベウスによって聞けるようにされていた。
キノは少し悩んだのち、また机に向かって勉強を始めた。
この広い屋敷の中で唯一の楽しみは、勉学に励むことだけだった。
まだゲーム機やカードゲームなどない時代。
羽根ペンを走らせながら、キノは創造主が残した魔法書で勉強をしていた。
教科書や参考書などはまだ普及しておらず、どの時代も、学校というものもない。
読み書きができたのは、上級貴族や王族のみ。
平民は読み書きができない者達ばかりで、特に女は勉学に身を置くのは好ましくないとされていた時代でもあった。
少しして、扉がノックされた。
入ってきたのは、父親だった。
「まだ勉強していたのかい？こんなに暗いのに……キノは本当に偉いね」
『お父様、どうしたのですか？』
キノは羽根ペンを置き、椅子を引いて立ち上がると父親に近づいた。
そこで、父親が何かを持っているのに気がついた。
『………？お父様、これは何ですか？』
キノは父親が手に持っている小さな、丸い形の陶器のような物を指差した。
「これはね、お香を焚くための容器で、これを香炉と言うんだよ」
『お香？』
キノは物珍しさから興味津々に顔を近づける。
香炉は丸い形をしており、白く塗られ、穴が花柄模様で掘られていた。
その花柄模様の穴から煙が出る仕組みだ。
『可愛い……』
「気に入ったかい？」
ルイはふふっと小さく笑って言った。
「これは、キノへのプレゼントだよ」
『私に？良いのですか？？』
キノの問いかけに、父親はニコッと微笑んでみせた。
「早速焚いてあげよう。お前のために遥々エジプトまで行って探してきた特別な香なんだ」
そう言いながら父親は蓋を開け、人差し指を入れた。
すると、すぐさま小さな煙が立ち昇った。
蓋を閉め、キノの前に香炉を持っていく。
「とっても良い香りだから、嗅いでごらん」
キノは手で仰ぎ、匂いを嗅いだ。
甘ったるい匂い。
『凄く甘い匂いですね』
父親を見上げたーーその時だった。
ドクン！
心臓が跳ね上がる。
『！』
ーー…………なに…………？
ガクンッ！
『！？』
下半身が突然、自分の体重を支えられなくなった。
『えっーー？』
ーー足の力が抜けーー？？
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
