第37話 ページ37
しかしーーそれすらも許されなかった。
父親の手によって掘り起こされ、赤子の遺体は森の猛獣達の餌にされてしまった。
キノは激しくルイを責めた。
怒り心頭を露わにさせ、攻撃する勢いで酷く罵倒したが、ルイは素知らぬ態度だった。
親子関係はますます最悪になっていった。
14歳の、この時のキノは笑わなくなった。
数ヶ月前までは天使のような笑顔でいたのに、あの夜の出来事から全てが一変し、決定的になったのはローズがルイに無理矢理まぐわされ、そうなった原因が自分のせいである事実によって深く傷つき苦しんだからだ。
キノは毎日毎日、自分を責めた。
部屋で毎日涙を流し、懺悔する毎日を送っていた。
ローズはあの日からキノを見ても、声すらかけてはくれなかった。
あからさまに避け、視界に入らないように無視していたのだ。
はっきりとした拒絶に、キノの心はどんどん沈んでいった。
カトリーヌは数時間後にはすっかり元気になっていた。
妊娠した記憶と赤ん坊を出産した記憶が完全に消去されていた。
ルイは抜かりなかった。
キノとローズ以外の妻達の記憶も修整していたのだ。
ルイは何故かローズにだけ、一目惚れ魔法を使わなかった。
その事について問いただすと、ルイは笑顔で言った。
「懐かない女がひとりいたって別にそれはそれで退屈しないと思っただけだよ」
その言葉に、激しい怒りを感じた。
『おーーお父様はーー退屈しのぎのためだけにーー嫌がるローズを相手していると言うのですか！？』
「それ以外に、あの娘になんの魅力があるんだい？」
『なっーー！』
怒りで身体が震えた。
『お……お父様には、人を愛する心が無いのですか……？』
「ないよ。必要のない感情だからね」
『っ……』
何を言っても無理だとわかった。
ーーこの人は……愛の感情が欠落しているんだ……。
だが、ルイは予想外の言葉を口にした。
「そもそも、ウランバルトの血を引く人間は皆、愛する心なんて持っていないんだよ。お前は……やはり何処か違うようだね」
『？どういう意味ですか？』
ルイは顎に手をやり、キノを見つめた。
「祖先達は皆愛情なんてなかった。私の父親もだ。まあ……そんなこと気にしたことがなかったけど。お前は生まれつき力も感情も違う……」
そして、ルイは酷くため息をついた。
「惜しいのは……お前が男だったら良かったのに……残念だよ」
『………』
男に生まれていたら違った未来。
悔しさと虚しさが襲う。
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作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
