第33話 ページ33
シーツが勢いよく舞った。
舞うシーツのその奥から手が伸びてきたかと思いきや、キノの胸倉が掴まれ、グイッ！と乱暴に引き寄せられた。
顔が見えた瞬間、キノは絶望した。
ーーそんな！！
「あんたを一生許さない！！」
ローズだった。
激しい怒りと憎しみの籠もった目でキノを睨みつけ、ローズは罵倒した。
『ロ……ローズーー』
「気安く名前を呼ばないでっ！最低！！なんでーーあんたと同じ顔の男にあたしはーーあたしはーーっ！！！」
ローズは裸だった。
裸の理由をキノはもう知らない訳ではなかった。
情事の後だということくらい、言わなくてもわかる。
『ごめんなさいーーローズ、私ーー』
「あたしはあんたの身代りなんですってね！あの男がーーあたしをひと晩中弄んだあの男がそう言ってたわ！！」
ローズの手がキノの首元に伸び、そしてありったけの力で握り締めてきた。
『！ローー』
首を締められ、キノは苦しさで声が出せなくなった。
弁解よりも先に説明をしたかったが、声にならず代わりに涙が溢れた。
その涙が余計にローズを激昂させた。
「何んであんたが泣くわけ！？何もされてないあんたが泣くとかーーふざけないでよ！！泣きたいのはあたしの方よ！！！」
そして、思いっ切りキノを突き飛ばした。
『ぐっーー！』
床に転がり、弾みでキノは椅子にぶつかった。
痛みが全身に回る。
ローズはシーツで身体を隠すと、キノの髪を鷲掴み乱暴に持ち上げた。
強く引っ張られ、ブチブチッと数本の毛が抜ける音がした。
痛みで涙が止まらなかった。
キノは、人が激怒している顔を見るのは初めてだった。
いつもの、知ってる顔じゃなかった。
修羅のような形相。
『ごめ……なさい……ローズ……わた……しが……わたしがーーあなたを巻き込んだせいで……』
「そうよね！あんたと出会わなければあたしはこんな目に合わなかったものね！今すぐ、あたしを村に返して！！」
ローズは荒々しい手つきで、キノの髪を揺さぶった。
頭皮に激痛が走る。
『っーー！む……村は………』
「はぁ！？村が何よ！！？」
『………む……村は………お、お父様の魔法で………ローズがいた記憶が……消されてしまってて………』
その言葉に、ローズの手が止まった。
「……………は？あたしがいた記憶………？み、皆に何したの！？」
『……ローズが居た記憶全てが……村の人達から抹消されて……しまってて……だからーー』
手が離され、キノはガクッと崩れた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あっちゃん | 作成日時：2023年5月5日 9時
