32話 ページ33
あんなに本気で嫌だと思っていた痛みも、恐怖には敵わなかった。
Aくんを止めるだけの元気を失ってしまったオレは、Aくんのすることが終わるのを、ただ黙って待つ。
唇をぺろぺろと子猫のように舐められ、時折吐く溜め息が胸元から服の中に入ってきて。
時折唇をちゅうっと優しく吸われたりすると、歯がカチカチと震えてしまう。何回も何回も擦られ、表皮が尚更薄くなっている粘膜に、柔らかい、思ったより肉厚な舌でぬるぬると唾液を刷り込まれて。
思考がぼやける。自分が今どういう状態だかわからない。
飽きもせずに延々とオレの唇を舐めているAくんに抵抗する気力はどこにも残っていないし、そもそも抵抗する理由もなくて。
ずっと身体を弱火で茹でられている気分だ。
何がそんなに楽しいのか、Aくんの目はギラギラしている。見かけガキなのに体力あんな、と頭の片隅で思っていると、尚も唇の隙間に舌を入れられる。
早く終わってくれ、と思う。けれど、どうやったら終わるのか考えられないから、ただ身を委ねているしかない。
舌を舐められて、痛みにびくりと体が震えた。Aくんはオレのその様子を見て、オレの口に指を入れて、舌を引き摺り出す。
「……はがた、いっぱい」
自分でつけたんっスよ、と心の中で返事をする。Aくんの歯がオレの舌に幾度も幾度も沈んで、オレはその度に身体をビクつかせるか首を振るかをしたが、その程度の弱い抵抗では止まらなくて、結局Aくんの満足いくまでさせてしまった。
お陰で今日、何を食っても、喋っても痛ぇし、最悪だ。
しかし、そうなることが予想出来ていたにも関わらず、オレは何故Aくんを本気で止めなかったんだろう、と思う。答えはわかっていた。面倒だったからだ。更に言うと、オレが本気で抵抗して、もしもAくんがそれを許してくれずに、オレの本気の抵抗を無視して作業を続けたら、オレの心が折れそうで、怖かったから。
オレとAくんは今、同意と非同意の非常に危うい線を渡っている、と思う。そして恐らく、Aくんはオレが本気で抵抗する瞬間を待っている。
その瞬間に、きっと彼の興奮はピークに達して、──その後オレを許してくれるかどうかはわからないが、とりあえずピークに達する。オレの本気で嫌がる様子を見てそうなるAくんすら、見たら心が折れるかもしれない。
ここにはオレとAくんしか居ないから、Aくんが明確に加害者に回った瞬間、オレの敗北は決定する。
138人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
功徳(プロフ) - オパールさん» ありがとうございます!よろしければ他の作品も読んでくださると好みに合うかもしれません🥰 (11月10日 20時) (レス) id: e0d582f997 (このIDを非表示/違反報告)
オパール - とーっても…面白かったです!この作品を作ってくれて、ありがとうございます! (11月10日 19時) (レス) @page42 id: e52a8096f8 (このIDを非表示/違反報告)
自分(プロフ) - 新.sinさん» 一気読みありがとうございます!これを気に入ってくださった方は私の別作品も気に入っていただけそうなのでおすすめさせていただいております……💕重ねてお読みいただきありがとうございました🥰🥰🥰 (2022年8月14日 16時) (レス) id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)
新.sin(プロフ) - 一気読みしてきました。私が占ツクで見てきた作品史上最も好き!!って思いました!!素敵な作品をありがとうございました! (2022年8月14日 15時) (レス) @page42 id: 03f8c9269c (このIDを非表示/違反報告)
自分(プロフ) - 黒恋さん» わーーいありがとうございましたお疲れ様でした〜!!!本当にありがとうございます……💕💕💕嬉しい嬉しいなあ…… (2022年6月2日 18時) (レス) id: a1f82c8f4e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ