12話 ページ13
ひとしきり泣いた後、ルカの背に回していた腕をそっと解いた。
開けた視界に映る彼の服には、私の涙による染みができてしまっていた。
「ありがとう。
ごめんね、服が……」
「気にするな。すぐに乾くさ」
ルカは自身の腕から私を解放すると、そっと私の頭を撫でた。
そして、低く静かな声でこう呟いたのだ。
「豊かな才を持った人間が、
必ずしも幸せになれるとは限らないからな……」
……もしかして、ルカもそうだったのだろうか。
あの事件には触れない方がお互いのためだと思って
まだ本人には言っていないけれど、
私はあの事件が報道された時からずっと、
ルカは無実だって、彼が人を殺めたなんて嘘だって信じてる。
かつて天才発明家と謳われたルカも、
私と同じように誰かに妬まれ、恨まれた結果
あんなことが起きてしまったのだと考えている。
……きっとあの事件のことを思い出しているのだろう。
声をかけるのを躊躇するくらい、ルカの目は暗く淀んでいた。
「……あぁ、すまない」
何も言わず、ただ彼の目を見つめていると、
我に返ったルカがはっとした表情を浮かべた。
大丈夫だよ、という意を込め首を横に振ると、
ルカはそっと私の両手を取った。
「あ、あの……？」
触れられた手から伝わる熱は即座に頬まで行き届き、
私の顔を赤く染めてゆく。
そしてルカは慈しむような、どこか色気のある表情と、
とろけるような甘い声で私に言うのだった。
「A・コレット。
どうか私のために、ピアノを弾いてくれないか」
……あぁ、どうしてだろう。
誰かの前でピアノを弾くなんて嫌だったはずなのに、
怖くてたまらなかったはずなのに、
ルカのため、大好きな人のためならば、
簡単にまた弾けてしまいそうな気がするのは。
「……喜んで」
私は軽くルカの手を握ってから、再度ピアノと向き合った。
息を吐きゆっくりと、確実に精神を落ち着けてから、
鍵盤に乗せた指に力を込め、音を奏で始める。
ーーピアノソナタ ８番 悲愴 第2楽章。
私がこの世で最も愛している楽曲。
もう、楽譜なんて見なくてもこの曲の全てを体が覚えている。
まさか大好きな人の前でこの曲を弾く日が来るなんて。
その嬉しさと喜びと、幸せを噛みしめながら、
丁寧にかつ情熱を込めて、目の前にいる彼に
語りかけるように旋律を作り上げていったのだった。
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たまごさん(プロフ) - れみこさん» えっご存知でらした…?嬉しいです…。ビクターくんのほうもご覧になってくださっていて本当にありがとうございます…。れみこさんのビクターくんも見てきました、世界観がとても好きです。素晴らしい作品をありがとうございます。 (2020年7月21日 17時) (
レス) id: e187441fa2 (このIDを非表示/違反報告)
れみこ(プロフ) - たまごさんさん» たまごさんだ！！ありがとうございます！！私、たまごさんの書くルカ君好きです！可愛い！あとビクター君の遺書の作品は泣きました……。ありがとうございます！更新出来るときはガンガンしていきます！ (2020年7月19日 23時) (レス) id: f32edadf87 (このIDを非表示/違反報告)
たまごさん(プロフ) - このルカくんも良きですね…。私もアラサー設定好きですよ。これからビクターくんのほうも見てこようと思います、応援してます。 (2020年7月19日 15時) (レス) id: e187441fa2 (このIDを非表示/違反報告)
れみこ(プロフ) - 沙羅さん» コメントありがとうございます！！うおおそう言っていただけると嬉しいです…！！更新頑張っていきますね！！ (2020年7月19日 12時) (レス) id: f32edadf87 (このIDを非表示/違反報告)
沙羅(プロフ) - ルカくんのお話増やしてくださってありがとうございます…！お兄ちゃんなルカくん、大人な格好いいルカくん…！好き過ぎてニヤニヤとトキメキが止まりません…(( 更新、楽しみにしております…！ (2020年7月19日 0時) (レス) id: 3aa856ffa1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：れみこ | 作成日時：2020年5月28日 3時
