【薄桜鬼】〜美男剣士は、実は女？〜肆

百五十一話　犬も食わぬ争い… ページ2

なおも、
二人の言い争いは続く。


一「早乙女は知らぬだろうが、
　我々は試衛館という天然理心流剣術の
　道場で貧しい暮らしぶりであった。
　そのときの食うや食わず時代を忘れず
　質素倹約に生きてこそ武士として正しい道だ」


A「その慎ましさは好感が持てる。
　だが、それはお前の考えであって
　他者に強制するものではない。
　永倉の日頃の生活態度を見ては
　苦言を呈したくなるのも分かるが、
　千鶴に甘味を奢るのは正しい行いだ！」


論理立てた己の主張を
淀み無くつらつらと口にする。

徐々に苛立ちが募ってきたようで
時折、眉や口元がつり上がり
美術品のような二人の無表情が崩れ始めた。


左之助「つーか…Aは
　相変わらず千鶴のことばっかだな」


傍観しながら左之助が苦笑する。

視野の狭まった二人は
まだ彼の存在すら気付いてないだろう。


一「あんたは雪村に甘すぎる…
　行き過ぎた優しさは時に堕落を招く。
　真に彼女の為を思うのならば
　突き放す厳しさも必要だ」


A「千鶴は芯がしっかりして
　常に己を律せられる子だ。
　謙虚で遠慮がちなあの子だからこそ
　俺は全力で甘やかし慈しみたい！」


言葉尻の熱量が上がり
より二人の間に暗雲が立ち込める。


左之助「ん…？なんか論議の風向きが
　変わった気がすんだが…」


いつの間にか、議題が
武士として正しい振る舞いとはなんぞや…から
千鶴への接し方にすり代わっていた。


一「それが雪村のためにならぬと言ってる！」


A「お前に千鶴の何が分かる！？
　誰に何と言われようとも
　俺は千鶴に甘味を食べさせたい！
　花が綻ぶような幸せな笑顔が見たい！！」


二人で感情的に声を荒らげた。

その周囲にも痛いほどに
張りつめた空気が伝染する。


新八「なんだろう……この…
　何とも言えねー居心地の悪いやつ…」


なぜか彼らまで
酸素が薄いような息苦しさを覚える。

新八は、この険悪な雰囲気に
どこか既視感があるが
何に対してなのかまでは分からない。


左之助「あれだろ？
　子供の育て方でケンカする夫婦のそれだ」


新八「あっ…それだ！」


左之助の鋭い考察に胸のつかえが取れ
新八が手を叩いて大きく頷いた。


千鶴「どうしましょう……
　私のせいで斎藤さんとAさんが…」


新八「千鶴ちゃんはなんも悪くねーよ！
　……もうあいつらは好きなだけ
　ケンカさせといて俺らは甘味処に行こーぜ」



＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


続く

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