29話 発情 ページ31
その瞬間、Aは男の前から姿を消した。
目にも止まらぬ速さで、その場にしゃがみ込んだのだ。
幸い、図書館には誰もいなかったので、外から見えない位置まで四つん這いで移動したAは、勢いよく立ち上がる。
…いやいやいや、
(私、マジで何してんの？アイツに隠れる必要なんて、まったくないのにッ！)
なぜこの私が、コソコソする必要があるのか。
己の行動に恥ずかしくなったAは、もう一度、窓に駆け寄るのであった。
「…あれ？いない」
Aがよく目を凝らしても、あの男の姿は、もうなかった。テニスコートには、沢山の人に囲まれた月が居るだけだ。
どこへ行ってしまったのだろうか。まぁどうでもいいんだけど。
Aは、月の顔をボンヤリと眺めた。
大勢の人たちに囲まれ、褒められて、嬉しそうに笑っている。
…あんな凡人たちに褒められて、月は本当に嬉しいのか？
そう疑問に思えば、図書館のドアが静かに開く音が聞こえた。
滅多に人が来ない図書館なのに、一体誰がやって来たのだろう？と、Aは不思議に思い、図書館のドアへと目を向ける。
L「Aさん、こんにちは」
「えッ！？」
まさかの人物に、Aは驚いて椅子から転げ落ちそうになった。
先ほどまで、テニスコートで月と試合していた男が、今、私の目の前にいる…！！
慌てて距離をとり、相手を睨み付けば、Lはそれ以上、Aに近付いて来ることはなかった。
「な、っな、アンタ、なんでここに…！？」
L「なんでって、貴方の姿が見えたので、会いに来たんです」
「はぁ？会いに来た…？どうせ、どうせ私を襲いに来たんでしょ？この図書館は、滅多に人が来ないもんね。襲うのには絶好の場所じゃない？」
L「…はい？」
「しらばっくれるんじゃないわよ！アンタらαは、いつも、いつもっ、いっっつもΩを見下してッ！」
コイツはΩを襲うα。
きっと、私が図書館にいるのを狙って来たんだ…！
こんな事になるなら窓なんて見なければ…。…いや、後悔しても仕方がない。近付いたらぶん殴ってやる。
何もかもが思い通りにいくと思うなよ。
L「Aさん、怖がらないで」
「は？怖がってないけど！」
そう声を荒げれば、男は困った様子で、ゆっくりと自分に近づいてくるではないか。
もしもの為に、フェロモン抑制剤は毎日飲んでいる。上昇しない体温に安心しつつ、Aは拳を握りしめた。
L「Aさん」
「…へ？」
床に片膝をついたLに、Aは呆然とした。
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作者名：あっきー | 作成日時：2019年5月1日 12時
