２人の恋２

矛盾するココロ ページ45

「今は違うんだ？」

「わかりません…。現役の頃ならハッキリ言えましたけど、もう引退したし」

「彼女のこと好きなんだね。そんなに考えるくらい」

「恋愛することでスケートがダメになるなら恋愛しないほうがいいような気がします。でも」

「でも？」

「じゃあ、彼女といる時の幸せな気持ちって何なんだろうって。簡単に捨てていいものじゃないのはわかるのに心がそれを素直に受けるのを拒絶しちゃうっていうか。普段は幸せに浸れるんですけど、スケートするとダメなんです」

結婚まで考えていて手放したくないと思っているのに、矛盾しまくりだ。
そんなの、抱えたまま突っ走るしかねぇじゃねぇか。
Aさんと一緒に生きる限りは。

「まだ慣れてないだけだよ。“普通”に」

「普通…」

「そう。ゆづが今までしてきた生活って普通じゃないんだよ」

「普通じゃ五輪連覇出来ませんからね」

「ふふ。そうね。でも皆、働きながら恋愛してるし、ゆづの友達のハビくんだって現役中に恋愛してたでしょ？」

「まぁ、ハビは情熱の国の人間ですから」
ラテン系と一緒にされても困る。

「うん。でもね？そろそろ生き方を切り替えないと、これから余計苦しくなるよ。前と同じじゃないんだよ。ゆづも周りも。何かを得るためには何かを捨てるっていうクセは卒業しないと」

「はい」

そうなんだろうか。
両方を追い求めてダメになるのがスケートだったとしても俺は笑えるんだろうか。
なんて、矛盾してる。
スケートも彼女も手放せないのはわかってんのに。


「よっぽど彼女にのぼせ上っちゃってるんだ？」

先生がニヤニヤしながら俺の顔を覗き込む。

「ばっ！！やめてくださいって…」

「だぁって、そんなにマジに悩むってことはよっぽどの相手なんだろうなって。どんな人？」

「うーん、なんか面白い…」

「へぇ。どんな風に？」

「大人なんだけど子供で、トンチンカンだけど頭が良く、鈍いけど割と気が付く。あ！あと男らしいくせに女らしくって。もう、わけわかんないですよ」

「なんだ。ただの大恋愛か」

「え？」

「ゆづ、今、いい表情(かお)してるの自分で気付いてる？」

「あんまわかんないかも」

「わからないくらい、張り詰めてるのかもね。もう無意識に」

先生は背中をポンポンしてくれた。

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