２人の恋２

綻び ページ35

「そうねぇ、青春時代は全てスケートだったもんね。お母さんはこのこと知ってるの？」

「はい。言いました。俺、ずっと同じ行動パターンで生きてきたから、ちょっと変わった動きすればすぐバレるんで」

母親には少し前に彼女がいることを伝えた。

俺が外出したり外泊したりは今までではありえないことだから、ちゃんと説明しておかないとかえって面倒なことになる。

意外にも相手のことは聞かれなかったけど、タイミング的に相手が“お見合いをしたお嬢さん”であることは勘付いているように思う。

俺の出会いがそれくらいしかなかったことは親も知ってるし、なぜか少しニヤけていた。

交際相手が“お見合いをしたお嬢さん”なら親にとっても好都合なんだろう。

「そっか。じゃあやっと人並みに恋愛してるんだね。良かった良かった！！」

先生があんまり喜んでくれるので、恋愛をしていてもいいんだと少し前向きになれた。

ずっと気になっている。

恋愛をしながらスケートに向き合えるのかどうかってことに。

こんなこと今まで一度もなかったから。

スケートのためだけに他を切り捨てて生きてきたから。

もう引退したんだからと自分に言い聞かせるけど、その生き方をなかなか切り替えることが出来ないでいるのだ。

それに実は今、自分のスケートに綻びを感じている。

ジャンプが乱れ始めている。

まだ小さな小さな綻びだけど、それが何から来ているのか気になっていた。

「それはそうとちょっと気になってることがあって。良かったら今度、一回練習見てもらってもいいですか？」

「いいけど、どうしたの？不調？またスケジュールみて連絡するね」

「ちょっと違和感があって。よろしくお願いします」

違和感は早期に解消しておかないと厄介なことになる。

俺は俺の大切なスケート技術を劣化させるわけにはいかないのだ。

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