２人の片想い

また会いたい ページ26

【結弦】

彼女を練習に誘ってジャンプを見せた。

ちなみに誰かを練習に誘うなんて今までにない。

こんなに張り切っていろいろ跳んだのに、彼女はあろうことかクワドアクセルをトリプルアクセルだと思っていた。

すげぇオチだ。完敗だ。

このジャンプ、ものすっごい大変なんですけど！

ついでに言うなら、世界で俺しか跳べないものすごい貴重なジャンプなんですけど？

楽しそうに見ている彼女には全くわかってなさそうだ。

悔しかったのでサラっと、また今度も当然くるよね的な発言をしてしまった。

そのことで、俺はもっともっと彼女に会いたいと思っている自分に気付く。

好きになったのかな、俺。

考えてみてもまだピンとは来ない。

ただ、会えなくなるのは嫌だと思うのだ。

「今日はありがとうございました。ジャンプが見られて本当に良かったです！」

「次は関原さんも滑ってみなよ。そういえば、こんな夜中に出かけてきてて大丈夫？家の人とか何も言わない？帰りは何？」

「羽生さん。私もう２９ですよ？あとここの近くで1人暮らししてるんです。自転車ですぐなんで大丈夫です」

「そっか。今度から車で送迎する？」

「いえいえ！羽生さん有名人ですし、私チャリで来ます。激近なんで！私の家」

手をぶんぶん振りながら彼女が続ける。

「それと、あの、さっきから次って言ってくれてるんですけど、また来てもいいってことでしょうか？私、邪魔じゃないですか？他の人に何か言われたりとか・・」

いろいろ気にしてるんだな。

「俺、仕事ない時はほぼ毎日練習してるから、たまに人がいても問題ない。あんま練習で人からあれこれ言われないし、リンクにいるの大体１人だから平気かな。あと他に心配なことある？」

「あ！マスコミとか大丈夫ですかね？私、２９でこんなですけど、一応生物学的には女なもので」

なんかこの人、素が出てきたぞ。おもしれ。

「密室じゃないから大丈夫かな。スタッフもいるしね。でもそう思ってこれ借りた」

袋から出したリンクのスタッフ用のウェアを見せる。

「こんなの勝手に用意して悪いけど、来る時と帰る時、これ上に着てくれない？そうすれば万が一の時も、スタッフみたいに見えるから」

「そうですね。それはいい考えです！」
彼女は素直に受け取ってくれた。

「あ、俺も聞かなきゃいけないことがある。関原さんは無理してない？ここに来るの嫌じゃない？」

彼女は少し照れた顔で、

「私もまた来たいです」

そう答えてくれた。

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