２人の片想い

思い出す ページ21

【結弦】

加速をつけてジャンプの姿勢に入る。


離氷のタイミングが納得出来なくて、わざとパンクさせてもう一度調整し直す。


相も変わらず、仕事に行く以外は深夜リンクに通い、朝方に眠って昼過ぎに起きるという日々を続けていた。


今後の方針はまだハッキリとは決めていない。


とりあえずオファーだけは多いので厳選した仕事をこなすだけでも一生過ごせるんじゃないかとすら思ってしまう。




あのお見合いがお互いに断って終わったことを両親に伝えると、両親の彼女に対する評価は急上昇した。会ったこともないくせに。


結弦を断るなんてすごい。名声や金に釣られないところが信頼出来るというのだ。


そうは言ってももう終わったし、連絡先も交換してないし、そういうことは自分でどうにかするから放っておけと言うと、それ以上はもう何も言ってこなかった。


今から思い返してみても、あのお見合いは最初の設定自体がなしだと思うし、やるべきではなかったと思う。



ただ、楽しかった。

楽しかったのだ。



彼女は今も、『恐怖の３大ジジイ』と日々格闘しながら働いてるんだろうかと、１人リンクで吹き出してハッとなる。


最近、あのお見合いと彼女の笑顔を思い出すことが増えていて、思い出すたびに忘れろと言い聞かせるのを繰り返している。




思い出したところでどうにもならない。

彼女も俺もお互いに断った。

もう・・会えないのだから。



練習後に次の予約を入れるべく、事務所でリンクのスケジュールを確認していると、『★☆銀行従業員組合レクリエーション』というのが目に入った。

★☆銀行とは、彼女の勤める銀行だ。


居合わせたスタッフに確認すると、銀行の行事でその日の昼間のリンクは銀行の貸切になるという。


知り合いのスタッフが体験レッスンのコーチをするらしく、「デカい規模の銀行はさすがですよね」なんて言っていた。


スケジュール表を見ながら、これ、彼女は来たりしないのかな・・と考えていた。



その次の瞬間には、その日、リンク以外のエリアは使用可能かどうかをスタッフに聞いていた。

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