1つの嘘(izw) ページ38
毎日を忙しく過ごす彼と最後に会ったのはいつだっただろう?夜中に更新される実況ツイートは相変わらず。ふと流れてくるツイートには彼が親しくしている女性タレントとのツーショット。見たくないけど見えちゃうんだもん、仕方ないけど。
“お似合いですね”
なんて言葉が並ぶその笑顔に私は何度目のダメージを受けるのだろう。
“もう付き合ってるでしょ”
ただの文字列なのに頭から焼き付いて離れないその言葉たちはどんどん、どんどん深く刻まれていく。
何枚もの親しげなその写真を彼だけアップにして画面いっぱいにする。屈託のない笑顔は見ていてなんだか無性に悲しくなり、画面を閉じた。
“今から行くよ”
いつもならウキウキとする彼からのメッセージ、だけど今日は気分が乗らない。テレビでもYouTubeでもない、生身の彼が目の前に居るのに、なんでこんなにもどんよりとしているのだろうか。まるで雨雲に覆われているかのように心の中が暗くなっていく。
「ねえ拓司」
「んー?」
家に来たからと行って、彼は暇ではない。会社の仕事だったり、講演会の準備だったり、やることは山積み。それなのに僅かでもいいから会いたい、いつしか私がお願いしたことを今も彼は律儀に守ってくれている。
「A?どうした?」
手を止めて眼鏡姿の彼と視線がぶつかる。いつ見ても心臓がきゅ、となるほど私はやっぱり拓司が好きなのだ。
「別れようか」
「、、、は?」
タレ目をパチパチとさせる彼も私は好き。
「拓司にはもっとふさわしい人が居るんじゃない?」
ほら、仲良しなあの人とか、ね?
なんて言ったら彼はいつも困ったような顔をするんだ。
「俺には、Aしか居ないよ」
何回目のやり取りだろう、いつも優しい拓司は同じ言葉を紡いでくれる。
単純な私は何度もその言葉に救われ、、いや、すがっていただけに過ぎないのかもしれない。
「A、どうかした?」
「嫌いになった」
会えない時間がぐっと増えて、どんどん遠い存在になっていくあなたが。どんどん小さな存在になっていく自分が。
「、、そう、わかった」
帰り支度する彼の荷物はあっさりと纏まってしまう。立ち上がる彼を見ることなく、私はずっと握りしめた手を見つめていた。
「じゃあ、、元気でな」
コト、と置かれた合鍵と閉まるドアの音を聞いて溢れ出る涙に気づく。
居場所を失くした合鍵は彼の思い出と共に箱の中へ仕舞った。
「嫌いになんて、なれないよ」
今日も笑顔の彼を見て、ひとり胸を痛めるバカな私は画面に向かって嘘だよ、と呟く。
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柊 - 亜杞さん» 分かります…!唐突に頭の中にメロディー流れてくるんですよね…私もまさかここで目にするとは思ってもいませんでした…あれをつかってこんな素晴らしい作品が書ける亜杞さんこそあんたすげーよ!(です!!) (2022年6月21日 18時) (レス) id: c57341bca6 (このIDを非表示/違反報告)
亜杞(プロフ) - 柊さん» 正解TMYです!私未だに口ずさみたくなっちゃうんですよね。まさかご存知の方がいらっしゃるとは……柊さん、あんたすげーよ!(これが言いたいが為にレス書き直しました) (2022年6月19日 23時) (レス) id: 892b969d86 (このIDを非表示/違反報告)
柊 - 焼きそばの校歌ってTMYですか…?間違ってたらすみません…気づいて少し懐かしくなりました (2022年6月19日 18時) (レス) @page34 id: c57341bca6 (このIDを非表示/違反報告)
亜杞(プロフ) - akiakiさん» 身に余るお言葉ばかり恐縮です。ありがとうございます!策士なfkrさん書きたがりなので楽しんで頂けると嬉しいです。過去作も新作の方もよろしくお願いいたします。 (2022年4月17日 14時) (レス) id: 892b969d86 (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - 読んでる途中ですがもうこのお話たちが好きすぎて、、、色合わせのfkrさん、自分のものじゃん!策士〜!その方らしさを出しながら、素敵なお話を書かれていて尊敬します。これからも楽しませていただきます! (2022年4月17日 10時) (レス) @page46 id: aa9a6e18cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜杞 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年1月14日 20時