天使か悪魔か(fkr) ページ2
クイズ番組のスタッフとして働く私は忙しい充実感と私生活の不満の狭間に揺れている。昔からクイズ番組が好きで高校生クイズに出たり、クイズ研究会に入ったり、そこで出会った人と結婚したのはつい最近。
好きなことを仕事に出来ている私と肉体労働を仕事としている夫とは価値観が最近ずれてきている。今夜も外は既に星空が輝いているのに我が家は真っ暗だ。
“今日遅くなる”
そんなメッセージが届いたのは夕ごはんを作り終えた後。彼の仕事がこんな遅くなることはあり得ない。素直に飲み会だとか遊びに行ってくると言えばいいのにそうしないのは後ろめたいことがあるからだろう。
「今回はどれくらい続くかな」
彼が浮気をするのは初めてではない。結婚する前もしてからも何度かある。それをわかっていながら夫婦関係を続けているのは結局私の所に帰ってくるとわかっているから。
なんて格好付けて言ってるけど自分が捨てられたらと考えたら怖いのだ。私は臆病だから。
“いまお時間ありますか?”
再びスマホに届いたメッセージはクイズの作成をお願いしているとある企業の方から。きっとお願いしていたものが出来たのであろう。大丈夫です、と返信すれば電話がかかってくる。
「お疲れさまです、Aです」
『お疲れさまです。ご依頼されていたものが出来たので確認をお願いしたくて』
「パソコンの方にデータ送ってもらえますか?」
『そうしたいのは山々なんですけど実はこちらの回線が調子悪くて大きいデータ送れなくて。ご迷惑だとは思うんですが直接届けに行くのは…』
ちら、と壁掛け時計を見れば午後8時。夫が帰ってくるのは週末だから日付は確実に跨ぐだろう。なんなら朝日が昇る頃かもしれない。それなら私が今から出掛けても問題はない。
『あの、Aさん?やっぱり明日会社の方に』
「あ!すみません。今からでも大丈夫ですよ」
『本当に?えっとじゃあ、』
待ち合わせ場所を聞いて電話を切る。冷めてしまった料理は冷蔵庫に入れる。軽くメイクして部屋着からちょっと良い私服に身を包んで少し逸る気持ちを抑えて鍵を閉めた。
「Aさん!」
「ふくらさん、お待たせしました」
指定された場所は人目が少ない駅の通りから少し外れた場所。彼は会社員と言いながら芸能事務所に所属しているわけだからこんなところを見られては支障があるからだろう。
別に仕事で会っているだけなのにこの背徳感はなんなのだろうか。
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作者名:亜杞 | 作者ホームページ:
作成日時:2023年6月3日 18時