JUMPの闘病生活。３ (ページ30)

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光と闇ページ30

涼介サイド

伊野尾先生が吐き気止めを入れてくれて、吐気が少し治まった。

伊野尾先生「立てる？手、洗いに行こ？」

涼介「うん。もう大丈夫。ごめんなさい」

伊野尾先生「謝らないでよ」

俺は、手を使わずに立ち上がる。

伊野尾先生「薬、ちょっときつい？」

涼介「大丈夫」

伊野尾先生「そっか」

涼介「だから、侑李には言わないで」

伊野尾先生は大きな目をさらに見開いて、俺を見る。

涼介「侑李には、このこと、隠したいんだ」

俺が手を洗いながらそう言うと、伊野尾先生は少し間を開けて「わかったよ」と言ってくれた。

伊野尾先生「でも、わかんねぇ。何で言っちゃダメなの？涼介がそういうタイプだってのはわかってるけど、何で侑李に言えないの？ ……家族なのに」

涼介「家族だから、言いたくないの。……先生もそんな経験あるんじゃない？」

家族だから、兄ちゃんだから。

強くいたいんだ。負けたくないんだ。

弟に心配をかける兄ちゃんも、弱った兄ちゃんも、それじゃダメなんだよ。

俺は侑李にとって、強くて頼りになる兄になりたい。

伊野尾先生は「……あるかもな、そういうときも」と言った。

だけどその顔から、本当はないけど俺に合わせてくれているのだと感じた。

涼介「負けてばっかりの兄ちゃんは嫌なんだ」

俺はそう言って蛇口をひねり、水を止めた。

水道が小さい子でも届くように少し低い位置に設置してあるため、前かがみになっていた体を起こすと、腰の奥に軽い疼きをおぼえる。

口からうめき声が漏れた。

伊野尾先生「涼介！」

涼介「ごめん、……へーき」

伊野尾先生「嘘言うなよっ！本当のこと言えよ！」

涼介「大丈夫、本当に……大丈夫」

俺は自分に言い聞かせるように、何度も「大丈夫」と繰り返した。

伊野尾先生「大丈夫なわけないだろ！家族以外だったら言えるんじゃないの？教えてくれよ、涼介……」

〝家族以外だったら言えるんじゃないの？〟

伊野尾先生がそう言ったのを聞いて、俺は思った。

家族じゃなくても、大切な人の前では、大丈夫なふりをしてしまうんだと。

侑李に言えなかったのは、家族だからってだけじゃなくて、侑李のことが大切で、大好きだからなんだと。

涼介「ほんとに大丈夫。心配かけて、ごめんなさい」

俺はそう言って歩きだす。はずだった。

足を１歩前に出したと同時に、体が大きく前に倒れた。

伊野尾先生「涼介！しっかりしろ！」

そんな声が聞こえた瞬間、全身に強い衝撃が走った。