恋愛ゲームの悪役に転生。だが男だ Ⅵ【男主】 (ページ25)

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side.z

暴れる音、結界の砕ける音。

なんとも壮大な合唱であるのにも関わらず美しさも華やかさもそこにはない。
ただただ光と闇がぶつかり合い、そして消えていく。

時折混じる風の矢と氷の弾を飲み込み、雷を切り裂いた。
ただただ身を委ね魔法を使う俺は一体どの様に見えるのだろう。

lu「きゃっ⁉︎」

結界ごと主人公を吹き飛ばし空を見上げれば、赤い月が雲の隙間から此方を覗いていた。
ゲームでは見えていなかった筈の月。誰かが見えるようにしてくれたのだろうか?

どこか眺めていると力が漲ってくる。奥底のやつも今だけは月からの元素を求めているのか静かだった。
純性の元素はやはり大切なものだと理解。

そういや昼間にも月が見える時が存在していた、と前世を思い出す。能天気にも程があると就活時にイラついたことがあったっけ。

しかし今はちょうどいいとまで感じる。印象とはさも簡単に変動するものだ。

「…で?こそこそ何仕掛けようと?」

指を鳴らして複数の魔法陣を破壊した。
落ちていく様子はまるでガラスの破片の様。

ut「やーっぱバレちゃうか…!」
「小手先の手品なんぞ興味ねぇよ」

凶暴化した闇の鳥をウツへと差し向ける。しかし鳥は煙の中に消えるだけ。そして俺の足元が氷漬けにされる。

ut「小手先の手品も役立つ時があるんやで」

煙から現れたウツがへらりと笑う。

「解除は?」
ut「ダメ〜。Aちゃんのこと傷つけたくないんやもん」
「その言葉を信じるとでも?」

ホントなんやけどなぁとウツは言うが、今の俺にそんな言葉は届かない。
ピキ、ピキ、とまた音が聞こえた。

An『あーテステス。…こほん、まもなくお時間デス』

アンの声が聞こえてイベントの終了時間を理解する。
まもなく教師が来て強制的に俺は眠らされるのだろう。

An『ご主人サマ。1ヶ月後、お会イできるコトを心よりお待ちシテおりますワ』
『それっぽい事言うじゃん』
An『ふふ、こう見えテ主人に尽くすタイプの魔物デスから』

ご機嫌よう、その言葉を残してアンは通信を切断。
そして俺は一呼吸ついて足元の氷を破壊した。

「はぁ…これくらい自分で破壊できる」

指の鳴る音。
次の瞬間、中庭に衝撃波が走った。