とある上司の物語 01-06 ページ7
「ねえ、前々から疑問だったことがあるんだけど」
ベッドの縁に腰を下ろし、斐之嵜が言う。
ネクタイを片手に振り返った宮園は、動きを止めた。
眉根に軽く皺を刻み、『お前、』と乾いた声で呟く。
『すごいことになってるな』
斐之嵜の身体には幾何学的な紋様が浮かび上がっていた。
色は黒一色。
それが白くて滑らかな肌を際立たせるように、背を埋め、腕へと伸びている。
『ファッションとかいう域じゃないだろう、それは。何かの呪いか？』
「え、今さら？」
振り返った斐之嵜も驚いた表情だ。
宮園の渋面を見上げ、首を傾げる。
「宮園さんと寝るのは今日がハジメテってわけじゃないのに、今？」
『……そうだったな』
「本当に俺に興味がないね」
『別にそういうわけじゃ』
「いいよ。いっそ潔くて好きだよ」
『好きなのか、』
そうか、と宮園も投げやりに頷く。
実際問題、斐之嵜個人に対しての興味はまるでなかった。
今日発見した彼の服の下の模様のことだって、何日かすれば忘れてしまうのだろう。
そして次に肌を重ねた時に宮園は同じことを訊くに違いない。
「そんなことより、宮園さん」
身支度のために斐之嵜が立ち上がる。
ベッドが軋み、今にも壊れそうな音を立てた。
「宮園さんって結婚してたよね？」
懐かしい話題に触れられて、今度は宮園のほうが驚く。
『……今さらか？』
「うん。思い出したんだけど、何年か前にお祝いを渡した気がする」
『そういえば、あったな』
何をもらったかまでは覚えていないが、そんなこともあった。
他人事のような気持ちで目を眇める。
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作者名：茄恋 | 作成日時：2017年12月21日 0時
