夜明け前の話 2 ページ19
「しおりちゃん……」
麻生は困ったように微笑む。
押しの強い宮園から逃れるように、体をわずかに引いた。
『逃げるなよ』
覆い被さるようにして抱き着いた。
宮園のほうが上背が高いため、どうしてもこんな体勢になってしまう。
ちくり、と心に針のようなものが刺さる。
昔はこうではなかったのだったな、と思い出した。
いっそ辛い。
麻生と初めて寝たのは、宮園がまだ十四の頃のことだ。
当時の宮園は首都・蓮蓬の下町で暮らしていて、監理局の職員でさえなかった。
その日の生活にさえ困窮していた宮園と、二十歳の時点で国から要人認定を受けていた麻生。
天と地ほどの格差があった二人が出会いには、大した物語なんてなかった。
お互いの利害が一致した売買が、路地裏で成り立っただけの話だ。
「若いって素晴らしいよね。ただ立ってるだけでも魅力的なんだもの」
麻生はそう言って、宮園の体を愛でた。
まだ成長期を迎えていなかったその頃の宮園は、今と変わらない麻生よりもずっと小柄だった。
人相の良くない鋭いつり目はそのままでも、充分に中性的な容姿だったのだ。
それを活かした原始的な商売は、まあそれなりに上手くいっていた。
「何か困ったことがあったら」
朝になって部屋を去り際、麻生は名刺をくれた。
「相談ぐらいは乗れると思うよ。未成年と寝たのがバレて、謹慎食らってない限りは、だけど」
麻生との縁はそんな会話を最後に一度切れ、次に再会したのは四年ほど経った後のことだった。
運命とは因果なものだ。宮園は常に考える。
後生大事に持っていた名刺一枚が大きな転機をもたらした。
ろくでもない人生の軌道は修正され、いつの間にか真っ当な道が足元に伸びている。
自分は成長したのだ、そう考えると誇らしい。
でも同時に、大きくなりすぎてしまったのではないか、とも思う。
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作者名:茄恋 | 作成日時:2017年12月21日 0時